金銭が請求できます【改正あり】
相続法改正前は、遺留分を請求すると、不動産の場合、遺言や遺贈によって財産を取得した人との共有になるとされていました。(不動産の共有については「実家を兄と2人で相続した場合、私の権利はどのようものですか?」をご参照ください。)
今回の相続法の改正により、遺留分の権利を持っている人(その相続人を含む)は、遺言や遺贈によって財産を取得した人に対して、遺留分侵害額に相当する金銭の支払いを請求することができるようになりました。
この場合に、遺言や遺贈によって財産を取得した人が、すぐに金銭を支払えない場合には、裁判所が支払いまでの猶予期間を定めることがあります。
2019.07.24更新
[改正あり]遺留分を請求した結果何がもらえるのですか?
投稿者:
2019.07.23更新
夏季休業のお知らせ
夏季休業のお知らせです。
8/13(火)~8/15(木)の3日間と、8/3、8/10、8/17の各土曜日を夏季休業とさせて頂きます。
皆さまにおかれましても夏の暑さで体調を崩されませんようどうかご自愛ください
投稿者:
2019.07.23更新
もし、夫が、妻が亡くなったら?民法改正と弁護士を味方に、相続を賢く乗り切りましょう!
「家族のために身を粉にして働いてきたのに、私の苦労はなんで評価されないの?」
相続が発生したとき、法律の理不尽さに嘆く方は多いと思います。
でも大丈夫!
2019年7月から実施される改正民法で相続が大きく変わりました。
介護に子育てに、身を粉にして働いてきた方々にかかわる部分は主に以下の4つです。
(1)夫が亡くなった後も、当面の生活費が助かる!
→ 相続人は、自己の法定相続分の3分の1までは単独で預貯金の払い戻しができる。
(2)夫亡き後も、相続取り分を減らさずに家に住み続けることができる!
① 贈与の優遇措置 → 生前、婚姻20年以上の夫婦が、配偶者に対し、居住用不動産を贈与(遺贈含む)していた場合は、贈与不動産は、遺産の先渡しとは扱われず、その分、配偶者の遺産の取り分が増える。
② 配偶者居住権(この改正のみ2020年4月から施行) → 相続開始時に被相続人所有の建物に居住していた配偶者は、配偶者居住権を取得し、終身又は一定期間、その建物に無償で居住することができる。
(3)介護が評価され、相続人ではない嫁にも取り分ができる!
→ 相続人以外の被相続人の親族が、無償で、被相続人の療養看護等を行った場合には、相続人に対して金銭請求ができる。
(4)遺留分制度による複雑な共有関係。でも、これからはお金で請求できる!
→ 遺留分を侵害された者は、遺贈や贈与を受けた者に対し、遺留分侵害額に相当する金銭の請求をすることができる。
この改正民法は、7月1日以降に生じる相続から適用されます。
ただ、まだまだ法律が施行されたばかりで、どんなケースでどんな結果が出るのか、判らないところもあります。こんなときこそ、経験豊富な弁護士に相談して、改正民法を最大限に活用して、法律をあなたの強い味方にするのが得策かと思います。
知っていたかどうかで、結果が全く違ってくることもある、そんな相続法改正、是非、ご自分でもチェックして、疑問な点は弁護士にご相談ください!
もちろん、東京合同法律事務所にご相談いただければ、今回の改正に限らず、「やっぱり専門家に相談して良かった」と思っていただける解決策をご提案させていただきます。
改正民法と弁護士を味方に、相続を賢く乗り切りましょう!
投稿者:
2019.06.11更新
弁護士による見守り契約(ホームロイヤー契約)のご紹介
弁護士の緒方です。
最近、単身の70代の女性の方が長期間にわたって多額の現金をだまし取られた事件についてご相談を受けました。
この方は、信頼していた方から良い投資信託の商品があると持ち掛けられ、数年間にわたって定期的に金銭を渡していました。
遺言書を作ろうとしたときに、預けたお金が銀行口座に存在していないことがわかり、詐欺に気づいたそうです。
高齢の方を狙う詐欺事件が後を絶ちません。
不安を感じていらっしゃる方のために、今回は弁護士による見守り契約をご紹介したいと思います。
最近、見守り契約(ホームロイヤー契約)という契約が増えています。これは、主に高齢者や障がい者の方が感じている将来の生活や財産管理等に関する不安を解消するために、法律相談や財産管理などを通じて継続的な支援を行う弁護士を選任するものです。個人の顧問弁護士のようなものです。
見守り契約を結んでおくことで、弁護士が財産関係でおかしい点がないか確認することや、個人の方が弁護士に気軽に相談することができるようになります。
依頼者の方々の状況やニーズに応じて、①見守り、②財産管理、③任意後見契約の3つの契約を自由に選択できます。
まず、①の見守り契約は、1~3か月に一回など定期的にご自宅に伺って安否を確認し、必要な時(ご入院時など)に支払いを代行することができます。
②の財産管理契約では、①の見守りに加えて、通帳や印鑑をお預かりし、預金や年金の管理を行い、各種支払いを代行することをいたします。
③の任意後見契約は、将来、依頼者の方の判断能力が不十分になった場合に備えて契約し、判断能力が低下した段階で、予め指定した弁護士に任意後見人として財産管理を行ってもらうというものです。成年後見制度では、近親者や裁判所が指定した方が代理人になりますが、任意後見契約では判断能力が低下する前にご自身の意思で任意後見人や契約内容を決めておくことができます。なお、判断能力が低下した時点で別途、裁判所が任意後見監督人をつけることになります。
自分らしい老後を安心して過ごすために、見守り契約は有効だと思います。ご興味のある方はぜひ一度ご相談ください。
この記事は緒方蘭弁護士が執筆しました。【関連:頼れる身内がいません。入院やお葬式のためにどんな準備をすればいいですか?、後見についてのお悩み、家族や離婚に関するお悩み(ホームロイヤー)】
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2019.06.06更新
子との面会交流~離婚する両親の間で子供につらい思いをさせないためには~
別居あるいは離婚によって、一旦、子どもと離れて暮らすと、離れて暮らしている親(非監護親)は、以後、子どもと会って親子として話をしたり、時にはキャンプや遊園地に出かけたりして交流すること(法律用語ではこれを「面会交流」といいます)ができなくなるのでしょうか。
そうではありません。もし、子供をもつ夫婦が不仲となり、別れて暮らすことになったとしても、子供にとっては、それぞれが、父(親)、母(親)であることに変わりはありません。離れて暮らしている親(非監護親)と交流を持つことは、一般的には子の人格的成長にとって望ましいと考えられているため、離れて暮らしている親(非監護親)と子は面会交流という形で交流を持つことが予定されています。
交流する方法としては、実際に直接面会して交流することが原則です(直接交流)が、電話やメールでのやりとり、手紙や写真を送る方法等、間接的な交流が行われる場合もあります。
面会交流をいつ、どのように行うかは、父と母が二人で話し合って決めることができればよいのですが、必ずしもうまくいかないことがあります。特に、父と母の間で感情的な対立が激化している場合には大きな問題が発生します。
子どもと一緒に暮らしている親(監護親)は離婚後の生活の立て直しに必死であることが多いですが、その際、離婚過程の心理的な傷つきが強いほど、監護親の方は、子と非監護親との接触により、非監護親が子を手なずけたり、監護親に逆らわせるのではないかといった不安、あるいは、ひょっとしたら監護権の変更すら目論んでいるのではないかと、猜疑的になったり、敵対的態度に陥ることがあります(子の面会交流を実施するにあたって、監護親が非常に強い精神的なストレスにさらされていることについては、弘前大学出版会「高葛藤紛争における子の監護権」に詳しく書かれています。)。
両親の間で対立が生じている場合には、子供としてはどちらの親も好きなのに、対立する両親の間に挟まれて、つらい状況に陥ることがよくあるので、留意する必要があります。この点、ベテランの調停委員でも、人によっては、紛糾した調停の状態から何とか脱したいと考えて、「子に決めさせよう」という発言をされる方もいますが、成人に近い子であればともかく、そうではない場合に両親の感情的対立によるつけを子に負担させること、両親の対立の狭間に子を立たせることの是非をよくよく考える必要があると思われます。
父母間の対立が激しくなるとふたりだけで決めることは難しくなるので、家庭裁判所の調停で、調停委員会(裁判官1名、調停委員2名)を介して、話し合って決めることになります。調停では通常、2名の調停委員がそれぞれの話を交互に聞く形で進められます。場合によっては裁判官が出席することもあります。
調停でも話し合いがまとまらない場合には、家庭裁判所調査官による調査、当事者双方の主張、立証などを踏まえて、最終的には、裁判所が審判(裁判の一種です。)で決めることになります。
面会交流を行うにあたって定める内容としては、次のようなものがあります。
・頻度、回数(例えば月1回など)
・日時(例えば、第2日曜日、10時から19時までなど)
・子の引き渡し方法
・面会以外の交流方法
・調整、連絡の方法
・条件(お互いに悪口を子に聞かせない等)、その他
父と母の間で、感情的対立が生じている場合には、できるだけふたりの間でのその都度の調整、折衝の必要がないように、頻度や日時だけでなく、引き渡しの場所や方法なども含めできるだけ具体的に定めておく方がよいかもしれません(ただ、具体的に定めると、その分、もし修正、変更が必要になった場合に、前もって相手に変更をお願いしなければならなくなるので、それがデメリットになる場合もあります。)。
この記事は上原公太弁護士が執筆しました。【関連:家族や離婚に関するお悩み】
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2019.05.31更新
【書籍刊行のお知らせ】Q&A見て分かるDNA型鑑定[第2版]
当事務所の岡部保男弁護士と泉澤章弁護士が編著者となった「Q&A見て分かるDNA型鑑定[第2版]」(現代人文社、定価3200円+税)が出版されました!第1版の好評につき、最新の理論・事件を加えてバーションアップしたものです。
裁判実務でDNA型鑑定が問題となった場合に、その鑑定方法の正しさや結果の妥当性をどう判断すべきでしょうか。2010年の第1版刊行以降、DNA型鑑定に関するガイドラインの改定や裁判所による新たな判断が多数ありました。
第2版では、それらを踏まえて、刑事弁護士の実務の視点からDNA型鑑定の実際と実践的知識を解説しています。
現代人文社:http://www.genjin.jp/search/s8738.html
版元ドットコム:https://www.hanmoto.com/bd/isbn/9784877987251
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2019.05.24更新
「非正規」だからと、不当な扱いを受けていませんか?
弁護士の市橋耕太です。
「働き方改革」が叫ばれて久しいですが、皆さんの職場では「働き方改革」は進んでいますか?
昨年成立したいわゆる「働き方改革関連法」によって、今年4月から色々な制度が変更されました。
重要なものとしては、「時間外労働の上限規制」と「有給休暇の取得義務」が創設されましたので、ご確認ください。
https://www.mhlw.go.jp/content/000463185.pdf(時間外労働の上限規制)
https://www.mhlw.go.jp/content/000463186.pdf(有給休暇の取得義務)
(いずれも厚労省HPより)
さて、2020年4月(中小企業は2021年4月)から施行される制度として、いわゆる「同一労働同一賃金」と呼ばれるものがあります。
これは、いわゆる非正規労働者と正規労働者の間に(賃金に限らず)不合理な待遇格差がある場合にこれを是正するものであり、「均等・均衡処遇」などと呼ぶのが正確です。
同様の規定としては、現在でも労働契約法20条というものが有期契約労働者と無期契約労働者との間の不合理な待遇格差を禁止しています。
均等・均衡処遇は、新しく創設されたいわゆる「パートタイム・有期雇用労働法」に定められており、そのポイントは以下のとおりです。
① 基本給、手当、賞与、退職金等の賃金はもちろん、福利厚生などのあらゆる待遇が対象になります。
例えば、「食堂や保健室を使って良いのは正社員だけ」というようなルールがある場合には、不合理であると判断される可能性が高いです。
② 比較方法は、待遇全体を比較して不合理か否かを判断するのではなく、個々の待遇ごとに比較します。
例えば、パートのAさんは1日4時間勤務で、正社員のBさんは1日8時間勤務だとします。
勤務時間だけが異なり、職務の内容等は同じだと仮定します。
この場合に、Aさんは基本給10万円、職務手当5万円(合計15万円)で、Bさんは基本給25万円、職務手当5万円(合計30万円)だとします。
Aさんの勤務時間はBさんの1/2なので、賃金の総額も1/2ならしょうがないのでは、と感じてしまうかもしれません。
しかし、ここでは基本給と職務手当を別々に比較することになります。
そうすると、基本給を比較したときにはBさんはAさんの倍を超える基本給を受け取っているので、不合理な待遇差であると判断される可能性があるのです。
つまり、総額において均等・均衡がとれていればよい、ということにはならないのです。
③ それぞれの待遇の「性質や目的」に照らして、パートや有期の方の職務内容や異動の範囲、その他の事情と、正社員のそれらとの違いを比較して、不合理か否かを判断する。
ここでの待遇の「性質や目的」とはどういうことでしょうか。
例えば、現場作業員の方には「危険手当」が支払われていて、事務を行うパートの方には支払われていないとしましょう。危険手当はまさに危険な現場作業を行うからこそ支払われているのであり、勤務時間の違いによって区別しているわけではないでしょう。
そうすると、パートか否かではなく、実際に行っている業務の違いに着目した待遇差なので、必ずしも不合理とはいえないという方向に評価されることになります。
逆に、「皆勤手当」が有期・パートの方には支払われず、正社員の方のみに支払われている場合はどうでしょうか。
皆勤手当は、皆勤を奨励する趣旨で支払われるものですから、雇用期間の有無や勤務時間の違いによって支給の有無を区別する合理性があるとは基本的には考えられません。
このように、それぞれの待遇が、どのような性質を持ち、あるいはどのような目的で設定されているのか、ということに着目して不合理性を判断する必要があります。
以上のような均等・均衡処遇の規制は、派遣労働者の方にも適用されることになっており、派遣先の労働者との均等・均衡処遇が原則として求められることになります。
現在、労働契約法20条というものに基づいて、均等・均衡処遇を求める裁判が全国各地で行われています。
最近では、それまで有期の方には支払われていなかった退職金や賞与の支払いを命じる判決も出ており、非正規労働者の皆さんの待遇改善に光を与える成果が出てきているところです。
(退職金につき、東京高裁2019年2月20日判決、賞与につき、大阪高裁2019年2月15日判決)
自分の待遇が周りの社員と比べて低いのではないか、と感じた方は、ぜひお気軽にご相談ください。
以上
投稿者:
2019.05.21更新
施行から1年-日本版「司法取引」はどのように運用されているのか
日本版「司法取引」の施行開始から1年
昨年(2018年)6月1日,可視化制度の導入や盗聴法の拡大などとともに,2016年改正刑訴法の“目玉”として新設された日本版「司法取引」が,いよいよ施行された。
新たに導入されたこの日本版「司法取引」制度は,他人の犯罪事実を取引材料にして自らの不起訴や刑の減免を得るという「捜査公判協力型」の司法取引であり,「密告型」の司法取引というべきものである。他人を密告したことで利益を得られるということは,そのような利益にあずかるために無関係の他人を巻き込んでしまう危険性がある。日本でも,これまで捜査機関によって事実上行われてきた「闇取引」によって,数多くの冤罪が発生してきた(「日本版『司法取引』を問う」2015年旬報社刊参照)。
日本版「司法取引」の施行開始から1年が経過した今,現実にどのような事件に「司法取引」が利用されているのだろうか。そして,導入にあたって懸念されてきた新たな冤罪の危険性は,完全に払拭されたのだろうか。
適用事例第1号-MHPS事件
2018年7月20日,東京地検特捜部は,三菱日立パワーシステムズ(MHPS)によるタイでの火力発電所建設に絡み,同社元幹部3人を不正競争防止法違反(外国公務員に対する贈賄)で在宅起訴するとともに,同社については,東京地検特捜部に対して捜査協力をした見返りとして不起訴とした。このMHPS事件が,日本版「司法取引」適用事例の第1号とされている。
しかし,そもそも「司法取引」を導入した目的は,法制審でもさんざん議論されたことだが,組織犯罪における黒幕処罰の必要性だったはずである。それゆえ,適用が想定される事例としてあげられていたのが,いわゆるオレオレ詐欺における末端の「受け子」「出し子」に恩典を与えて,実際に指令を下して多額の利益を貪っている黒幕を処罰するというものであった。ところが,MHPS事件は,要するに,現地の役人に賄賂を贈って事業継続をしようとした役員個人を法人自ら告発し,検察に捜査協力をすることで,法人そのものが恩典を得るというものである。法人処罰を逃れるため,その法人の事業遂行のため動いてきた個人の処罰に法人が協力するというのであるから,「トカゲの尻尾切りのために制度が利用された」との批判も,あながち嘘ではない。いずれにしても,当初の制度目的が黒幕処罰であったことからすれば,適用事例第1号がそれとはまったく違った目的のもとでの適用となったことは間違いない。
なお,MHPS事件で起訴された3人のうち,2人は起訴内容を認め有罪判決が言い渡されたが(東京地裁2019年3月1日判決),もう1人は無罪を主張し分離公判で争っており,今後,「司法取引」における合意内容の信用性が,初めて公判で争われるものと思われる。
適用事例第2号-カルロス・ゴーン氏の事件
そして,日本版「司法取引」適用事例第2号とされているのが,2018年11月以来,世間でも大きく注目されている日産元会長のカルロス・ゴーン氏の金融商品取引法違反・特別背任事件である。同氏の事件については,最初の起訴の後,なかなか保釈が通らず(その後弁護人の交代,保釈決定,保釈後の再逮捕),身柄拘束の長期化,人質司法の現状は国際的にも強く批判されているが,同氏の起訴内容を裏付ける証拠として,日産社員と検察との「司法取引」による合意があったことも注目されている。
もっとも,カルロス・ゴーン氏の事例については,未だ公判の目処はたっておらず,誰とどのような「司法取引」がなされたのかなどの事実関係が明確になっていないことから,現時点でその内容を評価することは難しい。しかし,同氏も弁護人も起訴内容については全面的に否認しており,今後開かれる公判での攻防については,その進展を注視してゆく必要がある。
日本版「司法取引」の今後と批判的視点の必要性
日本版「司法取引」が制度化されたとき,筆者は,「法務検察としては,制度の運用が現実化すれば,まずは財政経済事犯のなかでも,比較的件数の多い組織的詐欺や貸金業法違反などの一般事件から“成功例”を出して,根付かせて行くことを考えているのかもしれない」としていた。しかし,これまでに起訴された2つの適用事例を見る限り,検察(特に特捜部)が制度の定着を計ろうとしていることは間違いないものの,法制審などで典型例としてあがっていたオレオレ詐欺のような一般事件ではなく,大企業を舞台とした大規模事件に限定しているようにもみえる。
もっとも,このような適用傾向が今後も継続するのかは定かでない。現時点では,世論の多くが「司法取引」の問題性を意識せず,大規模事件における検察側立証の要として用いられたことについて,むしろ好意的ですらある(元検察官の郷原信郎氏は自らのブログで,MHPS事件に「司法取引」が適用されたことに“違和感”があると述べつつも,法人処罰を従来のように個人処罰の副次的なものと捉える従来の考え方から,個別に捉える考え方へと変化する契機になるのではないかと述べ,一定評価しているようである。)。
しかし,密告型「司法取引」による巻き込み型冤罪発生の危険性を完全に払拭する有効な手立ては存在しない。特に,司法取引によって「売られた」側の弁護人は,「売った」側の弁護人の同意というある種の“お墨付き”を得た供述を弾劾しなければならず,極めて困難なたたかいを強いられることになる。
さらに,新たな制度の有用性は,簡単に危険性へと転嫁することを忘れてはならない。大規模な経済的事件への適用「成功例」の賞賛は,今後適用される可能性のある別種の事件への無批判な適用を許しかねない。その別種の事件が,市民として身近に感じられない大企業の事件などではなく,民主的な組織にまで対象を拡げることも十分ありうる。
私たちは,今後も日本版「司法取引」が,新たな冤罪を生む危険性をはらんだ制度として存続していないか,常に批判的視点をもって,検証し続けてゆくことが必要であろう。
(2019年5月21日)
投稿者:
2019.05.15更新
【特集誌面】捜査関連事項照会と監視社会
当事務所の横山雅弁護士が3月6日に国会内で行った学習会の講演が誌面にて特集されました。
掲載されたのは「季刊 救援情報(2019年5月1日第101号)」。全国の冤罪事件を支援する日本国民救援会発行の専門誌で、今号の特集は「私たちの情報が丸裸に!?国民監視・管理を考える」となっています。
今年はじめには、Tカードの個人情報が警察に提供されていたことが発覚し、注目を集めました。
警察がTカードなどの情報提供を要請する際につかう捜査関係事項照会書の取扱いや法律上の考え方、プライバシーや監視の社会問題に踏み込んだ講演内容となっています。
日本国民救援会様に許可をいただき、講演記事部分を全文掲載させて頂きました。
ご興味を持たれた方はぜひご一読下さい。
↓講演記事(PDF)はこちらからダウンロードいただけます。
https://www.tokyo-godo.com/asset/20190501kyuenjouhouNo1.pdf
関連リンク:日本国民救援会とは
日本国民救援会は、1928年4月7日に結成された人権団体です。戦前は、治安維持法の弾圧犠牲者の救援活動を行い、戦後は、日本国憲法と世界人権宣言を羅針盤として、弾圧事件・冤罪事件・国や企業の不正に立ち向かう人々を支え、全国で100件を超える事件を支援しています。
日本国民救援会HP:http://kyuenkai.org/
投稿者:
2019.04.08更新
「忖度発言」辞任劇で幕は降ろせない
2019年4月8日 弁護士 荒井新二
「忖度発言」の塚田一郎国土交通副大臣が4月5日に辞任した。辞任理由を問われ「大きな会合のなかで雰囲気に呑まれ」「盛り上がるようなことを考えていた」と無内容な言い逃れにつとめたが、辞任に釈然としていないのは不満げなその顔貌からよく見てとれよう。安倍首相や麻生外相に「忖度」し、その地盤の「下関」「北九州」をつなぐ超大型道路プランを国の直轄調査事業に引き上げ4000万円の国家予算をつけさせたことを自画自讃したのに、頼みの綱の両人からも遂に見離されるなんてとても信じられない、という顔つきであった。腑に落ちないと言う内心が私には透けて見える。
マスコミは茂木敏充経済再生相の「忖度という、今一番使ってはいけない言葉を使った」と穿った見方を伝えているが、そのような政治的言語エラーの問題ではなかろう。ことの核心は、ほぼ10年前に棚上げされた「下関北九州道路」計画が今回、新規に国の直轄事業にされ調査予算もつけられたこと、そのプラン再浮上が安倍総理と麻生副総理の存在を抜きに考えられないことにある。さらに言えば、地元で「安倍・麻生道路」とも言われるこの道路計画を所轄する国交省大臣が公明党の石井啓一氏という問題もある。副大臣は国家行政組織法上「閣僚の命を受けて」「政務を処理」し、「閣僚不在の場合その職務を代行する」と定められている。基本的に副大臣といえども大臣を補佐する権限しかない。国交省大臣の閣僚ポストはこの間、ながく公明党の指定席になってきた。副大臣が自分の頭越しに「忖度」を国政の表舞台にのせたと言うならば、一番怒るべきは石井啓一大臣や公明党ではないのか。しかし彼らから忖度発言問題を自分や自党との具体的な関係でとらえた発言は寡聞にして知らないが、考えてみればこれも奇妙である。
だが私がもっとも驚いたのは安倍首相の国会答弁であった。
4月4日風邪のため自宅で伏せっていたとき、たまたま自宅のテレビで旧知の仁比聡平議員(弁護士)の国会質問を見た。仁比質問は安倍首相に、この道路プランの早期実現に向けて地元等議員有志から出された要望書の筆頭に安倍氏の氏名が書かれていたことを問題にしていた。これに対し安倍首相は「今まで知らなかった」と答え、総理大臣として自分に陳情する立場にはないと平然と応じた。
この弁明に心底、私は驚いたのである。後者の立場の問題は、そのとおりであろう。しかし、だからと言って前者の「知らなかった」とは必ずしも直結しない。たしかに自分が知らない間に、特定の集団に名前を勝手に使われることはあり得ることである(私だって過去にあった)。しかし、そのことを自分が知った時には、その経過と真意等を究明して所要の措置を講ずる、
-そうすることが普通であろう。
安倍氏が実際に自己の氏名冒用を知らなかったとしても、その後の道路プランの現実化およびその進展について、客観的に責任を負わなくていいとは到底言えない。
その氏名冒用は、第三者に当該人物が賛同していることを誤信させる行為である。本人の氏名を勝手に使うのは、その盛名を冒用することであって、第三者に誤信を植え付け、誤った(全部ないし一部の)判断を誘因するものと言える。その氏名が帯有する社会的な信用をそのように悪用されたことを知った者は、誤用をただちに告知し、第三者の誤信を払拭しなければならない。信用・信頼こそ社会の基礎であり、健全な相互の信頼は今日、社会の基本的なインフラとなっている。汚れなき相互信頼の構築をめざすことこそ重要な社会的な規範と言ってよい。
安倍氏はこの要望書を目にした以上、ただちに陳情書作成の経緯と影響などを調べ、事実でなければただちに自分が賛同した事実のないことを内外に明らかにして要望書作成者に対し抗議し、訂正を求めてしかるべきである。そうしなけば要望書は一人歩きもするし、第三者の誤信と誤判断はそのまま残ってしまう。この種の誤用と誤信の経過があったうえで、この「下関北九州道路」プランが実現に向けて既に動き出したいうのであれば、とりあえず全面的な白紙にいったんは戻すのが当然であろう。この問題は、重要な論点を多く含んでおり、国会でおおいに論議してもらいたいし、我々も今後十分に注視していかなければならないと思う。
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