共有名義の不動産のリスク
実家を相続したものの兄弟姉妹で共有名義にするケースがあります。たとえば、実家には娘夫婦が親と同居していたが、親が亡くなり娘夫婦がそのまま住み続けていたものの、名義は娘と娘の兄とで2分の1ずつの共有にしたような場合です。
しかし、共有名義の不動産にはリスクがあります。共有者は自分の共有持分を独断で売却することができるからです。持分売却の際に他の共有者の同意は不要ですし、通知する必要もありません。また、共有者に負債があると、共有持分を差し押さえられて競売されてしまうこともありえます。
もっとも、一般の人は共有持分だけを買い取っても使いみちがないので共有持分を購入したり競落したりすることはほとんどありませんが、共有持分買取業者が買い取ったり競落したりすることがあるので注意が必要です。
共有持分買取業者が共有持分を買い取ったり競落したりすると、他の共有者に持分を売るよう求めたり、あるいは持分を買うよう求めたりしてくるケースが多いです。業者は往々にして安く買いたたこうとしたり高値で売ろうとしたりしてきます。納得できない場合は応ずる必要はありませんが、共有物分割請求訴訟を起こされるリスクがあります。
共有物分割請求訴訟
共有持分の買取あるいは売却の交渉が難航すると、業者は共有物分割請求訴訟を提起してきます。業者は競売してお金で分ける判決を求めることが多く、判決で競売となった場合にその不動産を競落することも狙って訴訟を進めてきます。
長年住み慣れた実家から転居したくない場合や転居が困難な場合は、全面的価格賠償の方法によるべきことを主張し立証する必要があります。最高裁判所平成8年10月31日判決は「共有物の分割をする場合において、当該共有物を共有者のうちの特定の者に取得させるのが相当であると認められ、かつ、その価格が適正に評価され、当該共有物を取得する者に支払能力があって、他の共有者にはその持分の価格を取得させることとしても共有者間の実質的公平を害しないと認められる特段の事情があるときは、共有物を共有者のうちの一人の単独所有又は数人の共有とし、これらの者から他の共有者に対して持分の価格を賠償させる方法(いわゆる全面的価格賠償の方法)によることも許される」と判示しているので、この判例に基づいて主張立証することになります。持分の価格に争いがある場合は不動産鑑定が必要となるので、鑑定費用も用意する必要があります。
判決で全面的価格賠償が認められるだけの主張立証ができれば、判決の前に和解で業者の持分を適正な価格で買い取る可能性も出てくるでしょう。
しかし、ここでもう一つ気をつけるべきことがあります。
共有持分の根抵当権設定登記
それは業者の共有持分に金融機関の根抵当権設定登記がなされていると、全面的価格賠償の判決が確定して業者に持分価格を支払い共有持分の移転登記を受けても、業者が金融機関に債務を返済しないと根抵当権設定登記はそのまま残ってしまうことです。
要件に該当すれば根抵当権消滅請求手続はできますが、極度額に相当する金額を払うか供託しなければなりません。要件に該当すれば抵当権消滅請求手続もできますが、金融機関が所定の期間内に競売の申立てをすると競売になってしまい、住み続けるためには競落しなければなりません。それを避けるためには根抵当権者に残債務を払わなければならなくなります。根抵当権者に残債務を払えば、その払った金額を債務者である業者に求償することができますが、業者が支払を拒否すれば、求償金請求訴訟で勝訴し、強制執行しなければならなくなります。
そのような負担を考えると、全面的価格賠償の判決を得る前の和解交渉で根抵当権設定登記の抹消も含めた全面解決をはかることも検討する必要があります。
共有トラブルを避ける方法
このような共有トラブルを防ぐには共有名義を避けることが重要となります。相続の際などに不動産を共有名義にしないこと、共有名義にしてしまった場合には早めに共有状態を解消することです。不動産関係に詳しい弁護士に相談するようお勧めします。早めに相談すれば、共有状態にしない方法や共有状態を解消する方法などによりトラブルを防ぐことが可能となります。