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2024.02.07更新

 ここでご紹介する文章は、私(泉澤章)が加入している法律家団体、自由法曹団の東京支部総会へ向けて報告したものです。再審制度は無実の人を救済する最終手段ですが、これまで多くの問題点が指摘されながら、戦後一度も改正されたことがありません。現行の再審制度がほんとうに無実の人を救済する法制度として機能するよう、私たちは法改正を強く求めています。ぜひご一読ください。

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再審法改正へ向けた取り組み

東京合同法律事務所 泉澤章

“再審法”改正の必要性

 今年で事件発生から58年目となる袴田事件は、昨年3月に再審開始決定が確定し、現在静岡地裁で再審公判の審理が続いている。今年夏ころには、戦後5件目となる死刑再審の無罪判決が言い渡されるはずであると聞いている。犯人とされてきた袴田巌さんは、2014年の静岡地裁村山決定によって釈放されているものの、まだ完全な自由を得ているわけではない。再審無罪判決が確定することによって、袴田さんは名実ともに自由の身になる。そしてそれが実現するときは、もう目の前に来ている。
 しかし、この状況を手放しで喜んでばかりもいられない。袴田さんは、今年3月で88歳になる。残された人生の時間は率直にいってそう長くはない。一刻も早い再審無罪判決が言い渡されるべきであるが、振り返ってみれば、村山決定が出てから今年で10年目にある。もし村山決定が確定して再審公判がすぐに始まっていれば、袴田さんは70代で完全な自由を得られたかもしれない。なぜもっと早く再審が開始され、もっと早く再審公判が始まらなかったのか。そこには、他の再審事件にも通じる、現行刑事再審制度(刑事訴訟法第4編の再審に関する規定、以下「再審法」)が抱える大きな問題が立ちふさがっている。

改正すべき2つの点

 現行再審法が抱える問題のなかでも、特に重要な点の一つは、現行の再審請求審において証拠開示規定が存在しないことである。証拠開示規定がないため、現行法では担当裁判体が積極的に証拠開示を勧告しない限り、検察・警察側が保管している証拠を請求人が見ることはできない。しかし、再審請求審で積極的に証拠が開示された事件では、請求人に有利な証拠が発見され、それが再審開始に必要な新証拠となった例も多い。現行再審法のもとでは、結局、裁判体のいわば「当たりはずれ」で結論が決まりかねない。
 もう一つは、一度高いハードルをクリアして再審開始決定が出ても、現行法では検察が異議申立てをすれば開始決定が確定せず、再審公判も開かれないことである。袴田事件も2014年の開始決定に対する検察官の即時抗告が認められていなければ、とっくに裁判は終わり、袴田さんの完全な自由はもっと早く訪れていたことだろう。異議申し立てを認めずとも、検察がどうしても争いたいのなら、再審公判で争えばよいのである。
 このほかにも、現行再審法について改正すべき点は多々指摘されているが、少なくともこの2点については、早急に改正されなければならない。

再審法改正の機運の高まり

 これまでも、現行再審法を新憲法の趣旨(人権救済規定)に則って改正すべきという運動は、日弁連を中心に続けられてきた。特に、白鳥・財田川決定以降、死刑再審4事件が次々と再審無罪となった1970年代から80年代にかけては、日弁連だけでなく、政党や労組、市民団体の強い支持によって、法案が国会で審議されたこともあった。しかしこの時は、法務・検察当局の強い抵抗と、白鳥・財田川決定の意味を矮小化しようとする裁判官らの動きに抗し得なかった。その結果、1990年から2000年代初頭にかけて“再審冬の時代”が訪れ、著名事件での再審開始決定がほぼ皆無となり、再審法改正運動も徐々に立ち消えてしまった。
 風向きが変わったのは、2010年代に入ってからである。2010年の足利事件を皮切りに、布川事件、東電女性社員殺害事件、東住吉放火殺人事件、松橋事件、湖東記念病院事件と、立て続けに再審開始・無罪となる事件がマスコミを賑わせるようになった。死刑事件も、名張事件では後に取り消されたものの一度再審開始決定が出た。袴田事件では前述したように再審開始決定が確定している。このように、再審のいわば“新時代”をむかえたことで、再審に対する市民の注目も集まってきた。そこで、これら再審事件を支援してきた日弁連の人権擁護委員会を中心に、再審法のなかでも、現実の再審事件で特に問題となっている上記2点について、あらためて再審法を改正すべきとの運動を開始した。

再審法改正運動の現在地

 日弁連では、2019年の徳島人権大会で、上記2点を含む再審法の改正を速やかに行いよう求める内容の決議を採択し、2022年には再審法改正実現本部(日弁連会長が本部長)を設置し、全国的な弁護士会の取り組みとして運動を進めている。また、日弁連だけではなく、市民団体では日本国民救援会が全国各地で再審法改正の意見書採択運動を強力に押し進めており、2023年末の時点で、実に170近い自治体で意見書が採択されている。  
 今年は袴田事件の再審無罪判決が確定するであろう年であり、再審法改正の気運が最も盛り上がるであろう年でもある。この機運を逃せば、再審法改正の実現はまた延びてしまいかねない。
 東京三会でも、今年は再審法改正のシンポが予定されていると聞いている。日弁連で再審法改正運動を担っている団員は多く、また全国で再審事件の弁護にあたっている団員も数多い。ぜひ東京支部の団員も、積極的にこの運動へ参加していただきたい。

追記:この原稿を脱稿した直後、袴田事件弁護団長の西嶋勝彦先生の訃報が飛び込んできた。袴田さんの完全無罪判決を聞かずに亡くなられたことは、ほんとうに残念としか言いようがない。それとともに、もし2014年の再審開始決定に対して検察官異議申立てが認められていなかったら、とうに無罪判決を聞いていただろうにと、歯噛みする思いである。西嶋先生が最後まで強く求めていたこの再審法改正は、何としても私たちの手で実現しなければならない。

以上

投稿者: 東京合同法律事務所

2023.12.06更新

弁護士 坂勇一郎

 2023年通常国会に提出され継続審議となっていた金融サービス提供法等の改正が、秋の臨時国会で成立しました。改正法に基づき、来年春には金融経済教育推進機構が設立されます。利用者の立場に立って、金融経済教育を広く提供するための機構で、教材・コンテンツの作成、学校や企業等への講座の展開、個人に対する個別相談等を行います。
 金融経済教育については、すでに「金融リテラシー・マップ」が、生活スキルとしての金融リテラシーの内容を、年齢別に具体化しています。この内容も踏まえ、家計管理や生活設計、消費生活の基礎や社会保障・税制度、金融トラブルに関する内容も含めて、広範な観点からの教育の推進が期待されます。
 重要なのは、人々の分業と協業により成り立っている経済社会について、マクロ的なイメージを持ち、その中に自らの消費行動・金融行動をイメージできることと思います。

 田内学さんの『きみのお金は誰のため』(東洋経済新報社)は、こうしたイメージを持つのに最適な書です。お金をめぐる三つの真実、①お金自体には価値がない、②お金で解決できる問題はない、③みんなでお金を貯めても意味がない、について、ボスが中学生の雄斗と投資銀行に勤める七海に語ります。しっかりした金融理論を背景に、わかりやすい物語が展開されます。「学校では教えてくれない『お金と社会の本質』がわかる!」書籍です。
 投資教育でなく、こうした観点からの金融経済教育が共有され、広い意味での「金融行動」が促されることを期待したいと思います。

【東洋経済STORE】きみのお金は誰のため ボスが教えてくれた「お金の謎」と「社会のしくみ」(https://str.toyokeizai.net/books/9784492047354/)

投稿者: 東京合同法律事務所

2023.07.18更新

 

前回のコラムで精神障害のある方の刑事弁護活動について概略を書かせていただきました。詳細は下記リンクをご参照ください。
精神障害のある方の刑事弁護活動 (tokyo-godo.com)

今回のコラムでは、医療観察法について書かせていただきます。

1 医療観察制度の概要
医療観察法は、「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」という法律の略称で、心神喪失又は心神耗弱の状態(精神障害のために善悪の区別がつかないなど、刑事責任を問えない状態)で、重大な他害行為(殺人、放火、強盗、 強制性交等、強制わいせつ、傷害)を行った人に対して、適切な医療を提供し、社会復帰を促進することを目的とした制度です。
本制度では、心神喪失又は心神耗弱の状態で重大な他害行為を行い、不起訴処分となるか無罪等が確定した人に対して、検察官は、医療観察法による医療及び観察を受けさせるべきかどうかを地方裁判所に申立てを行います。
検察官からの申立てがなされると、鑑定を行う医療機関での入院が行われます(これを鑑定入院といいます)。鑑定入院期間は、原則として2か月で、この間に、鑑定医による鑑定及び社会復帰調整官による生活状況調査が行われます。その後、審判期日が開かれ、裁判官と精神保健審判員(必要な学識経験を有する医師)の各1名からなる合議体による審判で、本制度による処遇の要否と内容の決定が行われます。
審判の結果、医療観察法の入院による医療の決定を受けた人に対しては、厚生労働大臣が指定した医療機関(指定入院医療機関)において、手厚い専門的な医療の提供が行われるとともに、この入院期間中から、法務省所管の保護観察所に配置されている社会復帰調整官により、退院後の生活環境の調整が実施されます。
また、医療観察法の通院による医療の決定(入院によらない医療を受けさせる旨の決定)を受けた人及び退院を許可された人については、保護観察所の社会復帰調整官が中心となって作成する処遇実施計画に基づいて、地域において、厚生労働大臣が指定した医療機関(指定通院医療機関)による医療を受けることとなります。
なお、この通院期間中においては、保護観察所が中心となって、地域処遇に携わる関係機関と連携しながら、本制度による処遇の実施が進められます。

2 医療観察審判での弁護士の役割
 医療観察制度では弁護士は「付添人」という立場で手続きに関与することができます。検察官が、医療観察審判を申し立てると、裁判所は、手続きにおいて、必ず付添人を選任しなければなりません(必要的付添人事件といいます)。付添人は、対象者(手続きの対象となる人)や保護者(裁判所から選任された親族等)が私選契約で自ら選ぶこともできますし、弁護士費用を十分に支払えない場合には、裁判所が国選付添人に選任します。なお、国選付添人として裁判所から選任される弁護士は、弁護士会の研修を受け、専用の名簿に登録されている者に限られます。
 付添人として選任された弁護士は、鑑定入院先に面会に行き、対象者の言い分を聞き、必要に応じて鑑定入院の決定を争ったり、審判に向けて対策を協議します。審判は、鑑定入院決定が下されてから2カ月以内に開かれますので(法律上は1か月の延長が認められており、実務上ほとんど延長されます)、付添人は、社会復帰調整官との協議や、鑑定医との面談、家族との連絡等の必要な活動を限られた時間の中で行う必要があります。裁判所での審判において、「この法律による入院の必要」、すなわち、①疾病性、②治療反応性、③社会復帰阻害要因の3要件を審理しますので、入院決定を避けるためには、これらの要件が存在しないことを示す必要性があります。付添人としては、家族の受け入れが可能なのか、受け入れが難しい場合にはグループホームを探すなど、対象者の住居を確保したり、その他にも収入を確保するといった活動を行う必要があります。そして、審判までの間にこれらの活動をまとめた意見書を裁判所に提出します。

3 解決事例
医療観察制度は、国が医療を施す代わりに対象者を強制入院させる制度で、入院決定が下された場合には、概ね3年は指定入院医療機関での入院を余儀なくされる制度で、対象者にとっては長期の身体拘束を強いられます。もちろん、病状が芳しくなく、その方の社会復帰のために強制的な入院が必要な場合もあります。しかし、医療観察入院は長期の身体拘束を伴う点で、審判では慎重な判断がなされなければならないことは言うまでもありません。
私は、アルコール依存症の診断を受けた対象者の方に国選付添人に選任されたのですが、その方は鑑定入院中に、事件(傷害)の原因となった幻聴は治療によって消失していました。しかし、鑑定医の意見は医療観察法による入院を行うというものでした。私は、社会復帰調整官と協働して、福祉事務所に赴き、生活保護の申請を行って収入面を確保しました。また、この方は家族から受け入れを拒否されてしまったので、住居を探す必要があり、更生保護施設を探し住居を確保しました。また、審判に向けて、複数回面会に赴き、審判での受け答えの練習や、今後の社会復帰のための計画を一緒に練り、審判前に不処分(医療観察法での処分を行わないこと)を求める意見書を提出しました。その結果、これらが功を奏したのか、不処分という結果となり、対象者は鑑定入院先から退院し、社会生活に復帰しました。対象者の社会復帰のためにどの処遇が望ましいのか、必要な社会資源を利用し、疾病性がないことや社会復帰阻害要因がないことを裁判所に適切にアピールし、鑑定医の意見に反して不処分という結果を得た事例になります。

4 おわりに
医療観察事件は、刑事事件の延長にありますが、あまり弁護士の中でもなじみのある分野ではありません。医療観察の対象となる事件については、専門的知識のある弁護士に依頼して、福祉関係者らと逮捕段階から支援体制を整えていくことが肝要です。もしもご家族などが逮捕され、障害が原因となって医療観察事件に流れそうな場合には、弁護士を付添人に選任して、対応してもらうのが望ましいです。
当事務所は、刑事事件に取り組んできた歴史的経緯があり、複数回無罪を獲得するなど、実績は豊富ですので、ご家族やご友人で精神障害者をお持ちの方が逮捕されてしまった場合には、ぜひ当事務所にご相談ください。
なお、刑事事件に限らず、当事務所では幅広い分野に対応していますので、何かお困りのことがございましたら、お気軽にご相談ください。


弁護士 小河洋介

投稿者: 東京合同法律事務所

2023.06.16更新

(1)2023年の防衛費

2022年12月に出されたいわゆる安保三文書により、2023年度の防衛費は、6兆7880億円(前年度比+1兆4192億円)になります。2012年に第二次安倍政権が始まってから防衛費が増え続け、過去最高額を更新し続けています。この防衛費とは別に、後払いローンである後年度負担が7兆0676億円、防衛力強化資金3兆3806億円が計上されており、実際はもっと多額になります。
さらに、自民党は2022年4月、「新たな国家安全保障戦略等の策定に向けた提言」において、防衛費を「対GDP2%」に増やす方針を示しました。「対GDP2%」の防衛費になると、防衛費は従来の2倍になり、日本はアメリカと中国に次ぐ世界3位の軍事大国になります。
(2)安保三文書による変更
2022年12月の防衛力整備計画では、5年間で43兆円の防衛費を計上していますが、その間に新規契約する装備品購入費で、2028年度以降にローンで支払う額が約16兆5000億円もあり、これも合わせると60兆円近くにまで増えるという指摘があります(東京新聞2022年12月31日)。
2027年度には年間の防衛費が11兆円にまで増える計画です。これは従前の国家予算の規模では「対GDP2%」、国家予算の1割に相当します。
 予算の使い道について、国会で質問が行われましたが、防衛省はなかなか全容を明らかにしませんでした。
何をどうするかという議論よりも、とにかく防衛費を「対GDP2%」に増やすとし、金額ありきで決めているのではないかという疑問があります。私たちの税金が使われるのですから、無駄のない使い道であってほしいです。
 予算の確保や私たちの生活への影響については、次の稿で詳しくお伝えします。
 【(中)はこちらです】

 【(下)はこちらです】


 弁護士 緒方 蘭

投稿者: 東京合同法律事務所

2023.05.22更新


1 特別受益とは
 相続人の中に、被相続人から特別な金銭援助などを受けた人がいる場合、その受けた利益のことを特別受益といいます。
法が定める一定の要件を満たしている場合には、その特別な利益を受けた相続人は、いわば相続分の前渡しを受けたものとして扱い、遺産分割においては、その分はすでに相続したものとして計算して、相続人各人の取り分(相続分)を算定することになります。
例えば、父親(X)が遺言を作成しないまま亡くなったとして、相続人がその妻(A)と子が二人(BとC)だったとします。
父親(X)の遺産が相続開始時に1200万円であったとすると、特別受益を考えなければ、妻(A)が2分の1の600万円分を相続し、子ら(BとC)はそれぞれ4分の1の300万円分ずつ相続するという計算になります。
しかし、父親(X)の生前に、子のうちのひとり(C)が、特別に自宅の建築資金として100万円の贈与を受けていた場合で考えると、特別受益を考慮することになり、上記とは異なる処理をすることになります。
生前に100万円を贈与していた分も遺産の総額に入れて考えることになります(みなし相続財産)。そこで、遺産は1300万円であったと考え、妻(A)の相続分は650万円、子ら(BとC)の相続分はそれぞれ 325万円の計算になりますが、すでにCは100万円を相続分の前渡しとして受けていたということになりますので、遺産分割としては、妻(A)が650万円分、子(B)は325万円分、子(C)は225万円分を取得するという計算になります。
2 実際の協議ではどのように扱えばよいでしょうか
 上記1ではわかりやすい事例をあげましたが、実際には、特別受益が認められるのか、認められるとしてもいくらの範囲で認められるのかなどは、非常に微妙な判断となる事例が多いと思います。
 様々な主張がなされることが多いですが、特別受益による修正は、あくまで例外的な扱いですので、何でも認められるわけではありません。法の定める要件に該当している必要がありますし、それなりに確かな証拠がある必要もあります。
 実際には、裁判所で争いとなった場合でも、特別受益があったとは認められない場合も多いのです。
 遺産分割を行うにあたり、特別受益の問題が争点となりそうな場合には、法の定める要件を満たしているか、確かな証拠はあるのかなどを検証する必要があります。最終的には、裁判所が判断することになりますが、その見通しなどを弁護士に相談するなどしながら実際の協議を行う方がよいでしょう。
弁護士 上原 公太

投稿者: 東京合同法律事務所

2023.02.13更新

 当事務所の泉澤章弁護士のコメントがしんぶん赤旗の特集『消費者トラブル最新情報』に掲載されました。
 民法改正により、2022年4月1日から成人年齢が18歳に引き下げられました。2022年の4~10月期に18・19歳の方から国民生活センターに寄せられた相談は259件も増えたそうです。
 相談の内容で最も多いのは脱毛エステに関するもので、泉澤弁護士はコメントで「クーリングオフは一定期間であれば無条件で申込の撤回や契約の解除ができる制度ですが、エステの場合は8日間。利用しやすい制度とは言えません。」「とにかく、勧誘されたその場で契約するのは絶対にやめましょう!」と呼びかけています。
 脱毛エステに限らず、出会い系アプリやコンサートチケット転売、「簡単に儲かる」副業など、消費者トラブルには数多くのケースがあります。不安に思ったら早めに消費生活センターや弁護士にご相談下さい。

【リンク】消費者ホットライン:188 または03-3446-1623(平日バックアップ相談)

消費者トラブル

投稿者: 東京合同法律事務所

2021.11.15更新

弁護士 瀬川宏貴

 趣味の歴史の本を読んでいると、法律家の常で、「この人物の行動は〇〇法〇条に該当するな」などと頭にうかぶことがある。
 といっても傷害や殺人などはしょっちゅう出てくるので、うかぶのはもっとマニアックな条文である。例えば、刑法81条に「外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する」という外患誘致罪があるが、三国志で、劉備の軍隊を張松・法正が蜀の国に引き入れたのはこれに該当する、といった具合である。
 外患誘致罪は明治以来一度も適用されたことのない条文だが、そこまでではなくても、めったに使われない条文として民法93条の心裡留保(しんりりゅうほ)というものがある。これは、真意とは異なる意思表示をしてもそれは無効とならないことを定めたもので、本当はあげるつもりがないのに、「貴方に〇〇をあげよう」と約束することなどがこれにあたる。日常生活ではなかなかそんなことはないが、歴史をひも解くと、しばしばそんな場面を目にする。
 例えば晩年の徳川家康と藤堂高虎。高虎は、外様ながら家康の腹心として伊勢津藩の大大名となっていたが、「私の息子は若年で到底お役目を果たせない」として家康に領地返上を申し出る。しかしこれは真意ではなく、家名存続のための策であった。家康は「跡継ぎには物に馴れた老臣がいるのだからそれには及ばす。津は藤堂家が永世治めよ」とお墨付きを与えたのである。高虎の領地返上の意思表示は、民法の原則どおりならば有効となるところだが家康はそうしなかった。実は民法の規定も、相手方(この場合は家康)が意思表示が真意でないこと知っていたか、知りえたときはその意思表示は無効となるとしている。高虎と家康はお互いの腹のうちを分かり切った間柄であるから、高虎の真意を知りながらあえて家康はお墨付きを与えたのであろう。
 一方で、民法の原則どおりの結論となったのが、中国は清の初期、康熙帝に対する呉三桂の領地返上である。康熙帝は清の4代皇帝にして中国史上指折りの名君。廟号は聖祖。呉三桂はもと明の武将。清の覇権確立に大功があり、厚く遇されて雲南になかば独立国を領していた。このような状態は清にとって望ましいものではないので、康熙帝は呉三桂の勢力を削ぐ態度に出るようになった。この先植村清二「万里の長城」(中公文庫)から引くと次のような場面となる。
「呉三桂はこの形勢(注:上記康熙帝の態度)を察して、これを牽制するために、自ら藩を撤廃することを請うたが、聖祖は躊躇することなくこれを許して、断固たる決意を示した。進退に窮した呉三桂は、遂に兵を挙げて清朝に反抗するの已むなきに至った(西紀一六七三年)」。
 藩の撤廃(領地返上)を請いながら、これが許されると反乱するのだから、真意ではないわけである。呉三桂はこの時61歳、康熙帝は19歳。呉三桂としては自分を辞めさせるはずがないと高をくくっていたのだろうが、相手が悪かった。これが世にいう三藩の乱で、結局、乱は8年かけて平定され、呉三桂も陣没した。
 真意か否か説が分かれているのが三国志の名場面の一つである劉備の遺言の場面。劉備が臨終の際、諸葛亮に後事を託すが、もし息子(劉禅)が不才であればこれに代わって君主となるよう遺言する。この遺言を言葉のとおり解するか、諸葛亮の謀反を防ぐための牽制(心裡留保)と解するか説が分かれているそうだ。この問題は君臣の関係をどのように理解するかにかかっているのだろう。
 法律ではなく歴史中心の話となってしまったが、歴史は壮大な事実認定であるというのが私の持論で、これなどは心裡留保か否かの事実認定の問題そのものではないかと思ったりしているが、いかがだろうか。

投稿者: 東京合同法律事務所

2021.10.01更新

弁護士 鈴木眞

 毎年9月は防災月間であるとか。大正12年の関東大震災や、台風が到来しやすい時期であること等に由来して制定されたようです。今年もまた、台風情報に関するニュースが世上を騒がす時期となり、本コラムも、台風16号(「ミンドゥル」というそうです。)の日本接近が警戒されるという状況下で書いています。皆様、どうか十分注意を払ってお過ごしください。

 こうした防災ということですが、現在では、各自治体がハザードマップを整備し、浸水被害警戒区域や土砂災害警戒区域などを区分して、地域住民に対し、非常時の警戒や避難等を呼びかけています。
 他方で、防災体制が強化され、災害に対する備えが充実すればするほど、災害を受けたのは備えを怠った側が悪いのだという単純な自己責任論に結びつき、天災が人災に安易に転化してしまうことを危惧するコラムを一昨年書かせてもらいました。その想いは今も変わりはありません。
 昨今の異常気象によって招来される激甚災害なるものに対して、それを防ぐために住民がその生活を根本から変更するなど事実上不可能だと思うからです。

 さてそんな折、本年7月に発生した熱海の土石流災害について、遺族らが総額32億円を超える損害賠償の訴えを提起したとの報道に接しました。被告となったのは、土石流の起点となった場所の新旧土地所有者と、違法な盛り土造成を行ったとされる不動産管理会社のようです。
 違法な盛り土が原因となって土石流災害が起きたのだとすれば、それは人災であり、その違法状態を惹起した者に対して責任追及を行うということは、自然の流れではあります。違法な盛り土ということは災害発生直後からマスコミ等で叫ばれていましたから、いずれこうした事態になるであろうことは、少しでも法律的素養のある者であれば、容易に予見しえたものであったろうと思います。

 ただ、違法な盛り土→土石流の発生→近隣住民の被災・被害という因果の流れを立証することはそれほどたやすいことではありません。この点を立証するためには、地質学的知見や気象学的知見等々を駆使し、科学的観点から違法な盛り土によって土石流が発生し、住民が被害を受けたことを解明することが必要になると思われます。上記の原告団・弁護団の方々も、こうした因果関係の立証に向けて今後多大な労力と負担を注いでいくことになると予想されます。
 そしてまた、こうした多大な労力と負担によって仮に事態の解明に至れたとしても、次は、32億を超えるような賠償責任を一個人や一企業が果たしうるのかという問題に直線せざるを得ないことになると推測されます。

 こうしたことに鑑みると、人災だと強調することは、因果関係の立証が至極となって、あるいは、加害者とされる者の資力によって、被害者救済が立ち後れることになるのではないかという懸念が拭えません。
 昨今の異常気象が地球温暖化という人類の活動の所産の故であることに思いを致すとき、それによって発生した激甚災害の結果もまた、人類が共同して引き受けるべきものではないかと思わずにはいられません。
 その意味では、異常気象に基づく激甚災害が発生した場合には、まずは公的な事後救済がしっかりと図られなければならないのではないかと考えます。災害発生に何らかの寄与をした者がいる場合に、その者に対して何らかの求償を行うことがありうるとしても、その者に対する責任追及の可否や賠償額の如何によって、被災者が受けられる保護に差異や区別が設けられることになるのは、厳に避けるべきものでしょう。
 今や異常気象による被災・犠牲は、いつ、どこで、誰が被ったとしても不思議ではありません。被災者ということの立場の互換性、そういったものに基礎を置く法制度の整備を望んでやみません。

以上

一昨年の記事はこちら:【コラム】予見可能性についての一考(台風被害に関連して)

投稿者: 東京合同法律事務所

2021.09.06更新

弁護士 坂勇一郎

 今年(2021年)2月から8月にかけて、独立行政法人国民生活センターのウェブ版「国民生活」(注)に、資金決済法についての解説を連載しました。
 資金の支払いや送金を「決済」(資金決済)といいます。決済に関する法律としては、資金決済法と割賦販売法があります。
資金決済法は、商品券や電子マネー等の「前払式支払手段」、銀行以外の事業者が送金を行う「資金移動」について規制しています。これらは、支払いや送金の前に、または、支払いや送金の際に、決済業者にお金を払い込むものです。
 割賦販売法は、クレジット等の後払いの決済を規制しています。

(決済法制の概要)

 支払手段法律
前払い 前払式支払手段 資金決済法
即時払い 銀行振込等
資金移動
銀行法
資金決済法
後払い クレジット 割賦販売法

 

 連載は、これらのうち、資金決済法について、解説をするものです。
 なお、資金決済法は暗号資産(仮想通貨)についても規制しており、第6回、第7回では、暗号資産(仮想通貨)についても解説しています。
 決済については、情報通信技術の発達によりさまざまなサービス提供が可能となってくる中、規制が決済手段によって異なっており、中には、規制されないサービス提供もあることから、利用者にとって非常に分かりにくいものとなっています。
 利用者が安心・安全に支払いや送金が行うことができるよう、利用者保護の観点からの規制の横断化が望まれます。

(注)web版『国民生活』は、消費生活問題に関心のある方や相談現場で働く方に、消費者問題に関する最新情報や基礎知識を分かりやすく伝えるものです。

 

坂弁護士執筆の『国民生活』記事(PDF)が↓リンクからお読みいただけます。

2021年2月号(No.102)
【知っておきたい資金決済法】第1回 決済法制と資金決済法の概要

2021年3月号(No.103)
【知っておきたい資金決済法】第2回 資金移動業(1)

2021年4月号(No.104)
【知っておきたい資金決済法】第3回 資金移動業(2)

2021年5月号(No.105)
【知っておきたい資金決済法】第4回 前払式支払手段(1)

2021年6月号(No.106)
【知っておきたい資金決済法】第5回 前払式支払手段(2)

2021年7月号(No.107)
【知っておきたい資金決済法】第6回 暗号資産(1)

2021年8月号(No.108)
【知っておきたい資金決済法】最終回 暗号資産(2)

 

投稿者: 東京合同法律事務所

2021.08.11更新

2019年から相続法制は大きく変わってきています。
今回は、みなさん気になる、遺言についてです。

『遺言を書きたいけど、公正証書遺言ってちょっと大げさで、作るのにも気がひける。』

でも、大丈夫。
自筆証書遺言なら、自分で書くこともできます。
ただ、これまで、自筆証書遺言は、原則、全部を手書きしないとダメでした。
でも、大丈夫。
2019年1月13日からは、遺言につける財産目録だけはパソコンで目録添付したり、通帳のコピーを添付したりすれば良くなったのです。
ただ、せっかく自分で遺言を書いても、それが誰かに隠されてしまったり、あることに気付いてもらえないと困りますよね。
でも、大丈夫。2020年7月から、法務局が自筆証書遺言を預かってくれる「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。自分で書いた遺言書を法務局が預かってくれるので、これなら安心できますし、自分で保管する自筆証書遺言と違って、裁判所で検認してもらう必要もありません。

これは便利な制度になるかな。私もそう思っていましたが、公開された書式や制度の詳細を見ると、なかなかに面倒です。また、相続発生後、「遺言書情報証明書」という検認済みの遺言書に該当するものを取得するには、結局、相続人全員の戸籍や住民票などを揃えて法務局に提出すなければならず、かなり煩雑な事務作業が必要になります。
結局、この段階で専門家の力を借りなければならないことになりがちです。
また、そもそも、法務局では、遺言書の書き方など、作成に関する相談には一切応じられないとしていますので、適切な遺言が作成できる保証はありません。
そうであれば、最初から、弁護士に相談して、公正証書遺言で作成するほうが、確実な遺言が残せるのかな、と思いました。
あなたに合った内容や方法で、どんな遺言を作成するか。
まずは、弁護士にご相談ください!

弁護士 加納小百合

【遺言以外の相続制度改正記事はこちら】もし、夫が、妻が亡くなったら?民法改正と弁護士を味方に、相続を賢く乗り切りましょう!

投稿者: 東京合同法律事務所

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