1 『コロナウィルス感染を避けるため「夜の街」に行くな』という業務命令は有効か?
新型コロナウィルスの脅威が伝えられる中、会社が従業員の休日の過ごし方やエチケットを強制しようとしているとの報道がなされています。
しかし、会社内にコロナウィルスを持ち込まないようにするという理由で、会社が従業員に対して、休日の過ごし方や手洗い等のエチケットについて命令することは許されるのでしょうか。また、命令に違反したことを理由に、懲戒を行うことはできるのでしょうか。
(1) 業務命令に反して「夜の街」に行った社員を懲戒できるか。
一般的に、会社の就業規則には懲戒の規定があります。多くの会社では、「業務命令に違反した」場合や「社会的に著しく不適切な行為(※刑事犯罪など)を行った」場合などを懲戒の対象にしていると思います。
コロナウィルス感染拡大の原因の一つとして指摘されている「夜の街」ですが、もし、就業時間内に仕事をさぼって「夜の街」で遊んでいた場合は、当然懲戒の対象になるでしょう。
しかし、一般的に、就業時間外は業務命令に服する義務がないため、もし就業時間外に「夜の街」に行ったとしても、そもそも業務命令に反したといえないでしょう。したがって、就業時間外に「夜の街」に行ったことを理由に懲戒した場合、その懲戒は無効であると考えられます。
(2)コロナウィルスに感染した社員が「夜の街」に行っていたことが判明した場合、懲戒できるか。
コロナウィルスの感染経路は「夜の街」に限ったことではなく、通勤電車や会社のオフィスなど、どこでも起こり得ます。
そのため、社員が「夜の街」に行ったことによってコロナウィルスに感染したことの証明が困難であり、基本的に懲戒はできないと考えられます。
したがって、当該社員が社内にコロナウィルス感染を持ち込む強い悪意を持って、集団感染が発生している場所に敢えて意図的に行く、などという極めて特殊な事情でもない限り、懲戒解雇はできないでしょう。
(3)手洗い等のエチケットに関する業務命令は有効か。
会社は、職場の環境などについて、安全配慮義務を負っています。したがって、コロナウィルス感染対策としてエチケットの徹底を命令することは有効であると考えられます。もっとも、懲戒にあたっては、処分の相当性も求められることから、命令に違反したことを理由に直ちに懲戒を行うことができるとは限りません。
2 医療従事者への差別的発言
病院勤務の医療従事者が、「コロナウィルスがうつるから出歩くな」などの心ない言葉をぶつけられた、タクシーに乗車を断られた、保育園に子どもの受け入れを拒否されたなどの報道がされています。私たちの社会のために危険を伴う最前線で働いてくれている方々に対して、感謝と労いでなく職業差別的な言動がなされたことに心を痛めています。
医療従事者に対して、「コロナウィルスがうつるからで歩くな」などと発言した場合、どのような法的問題があるのでしょうか。
日常生活を営む権利を否定する「出歩くな」などといった発言をした場合、その趣旨や経緯にもよりますが、民法上の不法行為にあたり、損害賠償責任を問われる可能性があります。したがって、そのような発言は慎むべきでしょう。もっとも、医療現場で働いている方々の方が、自分よりもさらにコロナウィルスの恐怖を感じているかもしれないと想像してみたなら、そもそもこの様な発言はできないのではないでしょうか。
誰しもがコロナウィルス罹患や経済的な不安を感じる中で、他の人に対して寛容になれないのは無理の無いことかもしれません。しかしながら、このような未曽有の危機のときこそ、他者を思いやり尊重することが大切だと思います。
【弁護士紹介】弁護士 樋谷賢一