トピックス

2019.08.19更新

弁護士 久保田明人

 当事務所OBの桜木和代弁護士が共同代表を務める「日本カンボジア法律家の会」は、設立された1993年からカンボジアの法学教育支援にたずさわってきております。昨年、創立25周年の記念式典が首都プノンペンの大学で開催され、私も出席させていただきました。
 一般的に、途上国は、法制度や人材が不十分なため、先進諸国による法制度整備支援や法学教育支援が求められるのですが、カンボジアは少し事情が異なり、他の途上国以上に支援が必要な状況があります。ご承知のように、カンボジアは、1970年代からのポル・ポト政権下で、それまでの法制度が徹底的に廃止され、また、学識があると思われた者は虐殺されました(裁判官や弁護士など法律家で生存できた人は一桁と言われています。)。そのため、カンボジアは、1993年に民主化したものの、復興の基盤となる法制度を自力で整備したり、法律家を養成したりすることができない状況でした。
 そこで、桜木弁護士をはじめ数名の有志法律家が、法律面でカンボジアの復興を支援しすることを目的として同会を1993年に設立し、今日まで活動を続けてきています(現在では、同会の他にも、日本弁護士連合会やJICAも、カンボジアの法制度整備支援や法学教育支援に取り組んでいます。)。
 同会の取り組みとしては、法学教育支援事業に主力を注いでおり、大学での法律科目の講義やクメール語教材の提供などをしてきています。民主化から四半世紀経っても、法教育できる人材が少ない、母国語での教材がないなど、十分な法教育ができる環境であるとは言い難く、同会の取り組みはカンボジアにとってまだまだ必要不可欠なものと感じます。
 毎年8月、同会の弁護士や大学教授がカンボジアへ行き、大学での講義をしています。今年も8月22日から1週間のプログラムで講義があり、私もまた同行させていただく予定です。
 私は同会に昨年からの参加なので、講義はまだしませんが、弁護士業とは異なる分野でも自分が役に立つのであれば将来的にはぜひやってみたいと思っており、引き続き同会の活動に参加していく予定です。

投稿者: 東京合同法律事務所

2019.08.02更新

弁護士 藤本齊

 昨年来、目立たないけど見といてよかったと思う映画が不思議と多かった。それらの中で法律家として興味深かったのが二つ。いずれも、米国史上二人目の女性の連邦最高裁判所判事のルース・ベーダー・ギンズバーグ(RBG)さんをテーマにしたものです。片方は、実の甥の脚本にかかる“現在生きている最も偉大な女性のひとりの誕生物語”と銘打たれた『ビリーブ-未来への大逆転』。もひとつは、実際の彼女と関係者らを取材したドキュメンタリー『RBG-最強の85才』。

 今年の3月に86才になった彼女は、ブルックリンのユダヤ家系の生まれで、まだまだ女性が学ぶこと自体が難しく実際ごく少数だった時代にコーネル大学に入り、後にニューヨークで弁護士となる夫と学生結婚し子育てもし、また、夫の看病もしつつ、ハーバード・ロースクールからコロンビア・ロースクールに移り、そこをトップで卒業し、性差別の裁判等に関わり、「女性の権利プロジェクト」の立ち上げに尽力し、その弁護士として法廷に立ち、多数の事件に関与し、連邦最高裁で弁論を行った6件中5件で勝訴し、全米での女性の権利のためのたたかいの中心ともなり、80年にカーターからワシントンDC控訴裁判所判事に指名され、93年にクリントンから連邦最高裁判事に指名され、その職務を精力的にこなし、少数意見はじめその鋭い見識が社会的にも専門家らからも尊重され、いくつかのガンや病を克服し、筋トレとストレッチに励み、トランプの人事のおかげで一層少数派となったリベラル派判事たちのある種最後の砦ともなって、体力が自分を支えてくれて闘える間は絶対に辞任しないと豪語しつつ、いつの間にか「悪名高きRBG」とあだ名されるメディアの寵児ともなり、彼女のモノマネをする芸人や名入りのTシャツや人形、キーホルダや彼女が使う法服の“襟飾り”などなどのRBGグッズも出て、今やある種のかわいげとすごみのある86才として全米の流行人気スターみたいなことにまでなっちゃっているようなのです(この夫がまたユニークで実に楽しい)。
 その彼女、当然若い頃から、特に女性の権利問題を中心としたたたかいの、静かだけれども鋭い中心的存在でしたが、時代はまだまだ女性の社会的役割や権利についての古い固定的なジェンダー観が制覇していた時代でしたから、たたかいは困難を極めていました。それなりの裁判官たちでさえも、「それは、女性差別ではなくて、男女の違いを考慮した結果からくるそれなりの区別取り扱い、配慮として正当なものではないかい?」という域を出るものではなかったのです。社会的にもまだそうでしたが、裁判官達の世界はもっと保守的という側面もあって、大変だったわけです。
 そうした中で、彼女が目を付けたのが、色んな保護や補助の制度の中からこぼれ落ちてくる男性の権利の問題でした。
 例えば、妻と死別し幼い子の子育てと仕事の両立の困難を抱えて窮地にある男性に、夫と死別した女性と同等の給付金が支払われるべきではないか、また例えば、母親の介護で仕事を制限せねばならなくなっても、女性や妻を亡くした男性なら税の控除が受けられるのに結婚したことがない男性だと受けられないというのは不合理な差別ではないか、等々の主張につながる事件を発掘し当事者を励まして勝訴に導き、それらの訴求力をも活用して、更に世論をおこし、議会でも性による差別となっている法条項を何十何百と改正させていく運動に成功していきます。正されねばならなかった事柄の大半は、勿論、女性差別の是正と女性の権利の実現に繋がるものとなるわけです。
 うん? これ、似たような話を、どこかで聞いたような・・・? 

 戦後直後に出来たうちの事務所や再建された自由法曹団の弁護士たちは、松川事件(1949年、東芝労組と国鉄労組を狙い撃ちして権力側が謀略を巡らして列車転覆等を起こしておいて共産党員活動家らにその罪をかぶせようと証拠隠滅から自白のねつ造からありとあらゆる形での権力犯罪を含んでデッチ上げた弾圧冤罪事件。弁護団には、うちの岡林・大塚・後藤はじめ全国的に実に広く結集。当初死刑5名無期懲役5名を含み20名全員有罪(うち女性1名)。63年、二度目の最高裁で全員無罪確定。山本薩夫監督、三國連太郎・花沢徳衛・伊藤雄之助はじめ驚くべき名優たち満載の東映映画『にっぽん泥棒物語』で描かれて有名。こんなにある意味奇想天外極まりないコメディタッチの物語なのに、実に実に細部に至るまで史実に忠実な映画でして、未だに感心します。)はじめ、全国各地での弾圧事件や労働事件などのたたかいでテンテコ舞いでしたが、当時から、岡林さん達先輩たちは並行して八海事件・仁保事件その他のいわゆる一般刑事事件でのえん罪事件に取り組み始めていました。岡林さんの「苦しい最中に何故そんな事件までという苦情も出たが、裁判所もまちがうものだということを知らせ裁判所の公正という幻想を打ち破るためだ」とか、「なぜ自分は八海をやるか、松川のために八海をやったんだ」という言は、岡林さんの著書『われも黄金の釘一つ打つ』や事務所の史誌『右往左往30年』などにも出ています。
 私も直接聞いたことが何度かあります。「日本中で、特に政治的でもない普通の事件で、無実の人が無罪にならないでたくさん苦しめられている。そういう裁判が充満している中で、なんで最も政治的に先鋭で権力が意識的に謀略を仕掛けてきている弾圧事件の方だけが突出して勝てると思えるのかい?」と言うのです。八海を一つのきっかけにして、自由法曹団も事務所も国民救援会も一般のえん罪事件にも集中的に力を注ぐようになりました。日弁連自体も含めて法律家と救援運動の全体の構造が、えん罪全般に対するたたかいの中で、弾圧事件のえん罪性をも晴らしていくものとなってきたのです。
 まだまだ力を注ぐ必要は続いていますが、それらの実りは確かに大きくありました。
 そして、これ、どこか、RBGさんの戦略にも通じるところありと感じませんか。
前線での果敢なたたかいとともに、一歩どころか最も基礎的な線にまで引いた地平でのたたかいをも重視し、より広く共通の基盤を打ち固める地味だが基礎的なたたかいを、共々にたたかい抜く、われわれも受け継いできたはずの、そういう幅広く底深い構造をもった伝統と智恵を是非のばしていきたいものです。

 再びRBGの言に戻りましょう。「区別の名の下に差別することは、女性の権利の後押しではなくて篭への閉じ込めなのだ!」
 微笑ましくも威厳ある86才、万才!

「事務所ニュース」136号(19年8月1日号)の「随想」欄の方の冒頭近くでは「現在唯一(米国史上二人目)の女性の連邦最高裁判所判事」となっていますが、誤りですので、お詫びして訂正します。正確には、最初の女性のサンドラ・オコナーさんが辞職されたあとRBGさん一人になったのですが、その後、オバマ大統領によりソニア・ソトマイヨールさん、エレナ・ケイガンさんの二名の女性が指名され、現在九名中三名になっています。塚原英治さんの指摘により気付きました。ありがとうございました。

 

投稿者: 東京合同法律事務所

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