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2019.04.08更新

2019年4月8日 弁護士 荒井新二

 「忖度発言」の塚田一郎国土交通副大臣が4月5日に辞任した。辞任理由を問われ「大きな会合のなかで雰囲気に呑まれ」「盛り上がるようなことを考えていた」と無内容な言い逃れにつとめたが、辞任に釈然としていないのは不満げなその顔貌からよく見てとれよう。安倍首相や麻生外相に「忖度」し、その地盤の「下関」「北九州」をつなぐ超大型道路プランを国の直轄調査事業に引き上げ4000万円の国家予算をつけさせたことを自画自讃したのに、頼みの綱の両人からも遂に見離されるなんてとても信じられない、という顔つきであった。腑に落ちないと言う内心が私には透けて見える。

 マスコミは茂木敏充経済再生相の「忖度という、今一番使ってはいけない言葉を使った」と穿った見方を伝えているが、そのような政治的言語エラーの問題ではなかろう。ことの核心は、ほぼ10年前に棚上げされた「下関北九州道路」計画が今回、新規に国の直轄事業にされ調査予算もつけられたこと、そのプラン再浮上が安倍総理と麻生副総理の存在を抜きに考えられないことにある。さらに言えば、地元で「安倍・麻生道路」とも言われるこの道路計画を所轄する国交省大臣が公明党の石井啓一氏という問題もある。副大臣は国家行政組織法上「閣僚の命を受けて」「政務を処理」し、「閣僚不在の場合その職務を代行する」と定められている。基本的に副大臣といえども大臣を補佐する権限しかない。国交省大臣の閣僚ポストはこの間、ながく公明党の指定席になってきた。副大臣が自分の頭越しに「忖度」を国政の表舞台にのせたと言うならば、一番怒るべきは石井啓一大臣や公明党ではないのか。しかし彼らから忖度発言問題を自分や自党との具体的な関係でとらえた発言は寡聞にして知らないが、考えてみればこれも奇妙である。

 だが私がもっとも驚いたのは安倍首相の国会答弁であった。

 4月4日風邪のため自宅で伏せっていたとき、たまたま自宅のテレビで旧知の仁比聡平議員(弁護士)の国会質問を見た。仁比質問は安倍首相に、この道路プランの早期実現に向けて地元等議員有志から出された要望書の筆頭に安倍氏の氏名が書かれていたことを問題にしていた。これに対し安倍首相は「今まで知らなかった」と答え、総理大臣として自分に陳情する立場にはないと平然と応じた。

 この弁明に心底、私は驚いたのである。後者の立場の問題は、そのとおりであろう。しかし、だからと言って前者の「知らなかった」とは必ずしも直結しない。たしかに自分が知らない間に、特定の集団に名前を勝手に使われることはあり得ることである(私だって過去にあった)。しかし、そのことを自分が知った時には、その経過と真意等を究明して所要の措置を講ずる、
-そうすることが普通であろう。

 安倍氏が実際に自己の氏名冒用を知らなかったとしても、その後の道路プランの現実化およびその進展について、客観的に責任を負わなくていいとは到底言えない。
 その氏名冒用は、第三者に当該人物が賛同していることを誤信させる行為である。本人の氏名を勝手に使うのは、その盛名を冒用することであって、第三者に誤信を植え付け、誤った(全部ないし一部の)判断を誘因するものと言える。その氏名が帯有する社会的な信用をそのように悪用されたことを知った者は、誤用をただちに告知し、第三者の誤信を払拭しなければならない。信用・信頼こそ社会の基礎であり、健全な相互の信頼は今日、社会の基本的なインフラとなっている。汚れなき相互信頼の構築をめざすことこそ重要な社会的な規範と言ってよい。

 安倍氏はこの要望書を目にした以上、ただちに陳情書作成の経緯と影響などを調べ、事実でなければただちに自分が賛同した事実のないことを内外に明らかにして要望書作成者に対し抗議し、訂正を求めてしかるべきである。そうしなけば要望書は一人歩きもするし、第三者の誤信と誤判断はそのまま残ってしまう。この種の誤用と誤信の経過があったうえで、この「下関北九州道路」プランが実現に向けて既に動き出したいうのであれば、とりあえず全面的な白紙にいったんは戻すのが当然であろう。この問題は、重要な論点を多く含んでおり、国会でおおいに論議してもらいたいし、我々も今後十分に注視していかなければならないと思う。

投稿者: 東京合同法律事務所

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