トピックス

2018.05.10更新

「身に覚えのない料金を請求するハガキやメールが届いた」

「支払わないと訴訟手続きを開始するとあるが、大丈夫なのか」

 近年、全国の消費生活センターに寄せられる架空請求の相談が急増しています。2016年は8万件だった相談数が2017年には18万件と倍増し、実在の大手通販サイトをかたるものやスマホのアプリやサイト利用料として請求されるものなど手口は多様で巧妙になっています。

①「アプリの未納料金があり、1週間以内に連絡しないと裁判を起こす」というショートメッセージがスマホに届き、連絡をとると5万円のサイト利用料を請求された。

②大手通販サイトの担当者を騙る者から未払い料金請求のショートメッセージが届き、返済はコンビニのプリペイドカードを買ってシリアル番号を教えるよう指示された。

③一度支払った後、別の事業者を騙る者からも請求があり今なら安くすむなどと言われ支払ってしまった。

④アップルやSNSアプリのアカウントの管理会社を騙る者から、アカウントに問題があるというURLリンク付きのショートメッセージが届き、技術的なサービス料として料金を請求された。

 ここに挙げたのはあくまで一例ですが、身の回りのあらゆる事を架空請求の手口として利用しようとしています。振り込み方法もATMとは限らず、プリペイドカードのシリアル番号や現金の手渡しなど多様です。裁判所など公的機関や弁護士の名を騙るケースもあります。

しんぶん赤旗「くらしの相談室」コーナーに泉澤章弁護士のアドバイスが掲載されました。

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 法務省や裁判所などと記されていると、普通ビクッとするでしょう。そこがだます側のねらい目です。
 しかし、公的な重要文書が、電子メールやショートメール、はがき1枚で送られてくることは、まずありません。
 また、「本日ご連絡なき場合は法的手続に移行する」とあったり、「取り下げの最終期日○月○日」など、たった数日後の期日を記していたりしますが、これは相手を慌てさせる詐欺の常とう手段です。公的機関がそんな短時間に返事を求めることはありません。
 「プライバシー保護のため、必ずご本人様からご連絡頂きます様」などという書き方で、周囲に相談させにくくさせるのも、ありがちな手口です。
 こうしたメールが来ても対応しないこと。また、はがきにある電話番号には絶対電話せず、メールのURLリンクは絶対クリックせず、全国の消費生活センターや知り合いの弁護士など確かなところに相談しましょう。うっかり電話してお金を請求されたり、プリペイドカードを買えと言われても、応じる必要はありません。

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 もしも本当に支払いが滞るなどしており、裁判所から正式な訴状や督促状が届いたり、債権者側の弁護士から通知がきたら、まずは弁護士にご相談下さい。

 万一、詐欺でお金をだまし取られてしまった場合、詐欺師が逮捕され有罪が確定した後、賠償請求の民事裁判の判決に基づいてだまし取られたお金を回収することになります。賠償命令を無視して詐欺師が支払いに応じない場合には強制執行で債権を回収することになります。しかし、回収が長期間に渡ることや、被害の全額を回収することが難しいケースもあり得ます。

「対応しない、電話しない」ことを原則にまずは確かなところに相談し、架空請求の被害に合わないよう、どうかご注意下さい。

 

【関連:泉澤章弁護士消費者トラブルに関するお悩み

投稿者: 東京合同法律事務所

2018.05.07更新

弁護士 泉澤章

日本版「司法取引」の施行開始

 今年(2018年)6月1日から日本版「司法取引」がいよいよ施行されます。施行を前にした今年3月16日には,政令で定めることになっていた財政経済犯罪(刑事訴訟法350条の2第2項2号)について閣議決定がなされました。政令では対象となる「特定犯罪」に,脱税や独禁法違反,金融商品取引法違反,特許法違反,貸金業法違反,破産法における詐欺破産,会社法の特別背任などがつけ加えられることになりました。また同月19日に最高検は,全国の地検と高検に基本的な運用方針をまとめた通達を出しました。

日本版「司法取引」制度の特徴

 日本版「司法取引」制度は2016年,可視化制度の導入や盗聴法の拡大などとともに刑事司法制度改革によって新設されました。その特徴を一言でいえば,自ら犯した犯罪事実を取引材料にして自ら不起訴や刑の減免を得る,いわゆる自己負罪型の取引ではなく,他人の犯罪事実を取引材料にして自らの不起訴や刑の減免を得るいわゆる捜査公判協力型の司法取引であるということです。捜査公判協力型などと小難しくいえば聞こえはいいですが,要は他人を「売る」ことであり,「密告型」の司法取引といってもいいでしょう。

 自己負罪型司法取引の典型例として,アメリカの司法取引が良くあげられる。重い罪を犯した犯人でも罪を自ら認めれば軽い刑で済むという,テレビや映画にも良く出てくる制度です。重罪を犯していることが確実なのに軽い罪ですぐ釈放されてしまうというところに,腑に落ちない日本人は多いと思われますが,アメリカではこうでもしないと大量の刑事事件を処理することがおよそ不可能であると言われているようです。

 改正刑事訴訟法の成立過程で,日本では自己負罪型の司法取引ではなく,捜査公判協力型の司法取引を導入することに決まりました。日本で捜査公判型の司法取引制度が導入されたのには,この新制度の導入が,取調べ可視化制度の導入とのバーターであったことが大きく影響していると思われます。取調べ可視化制度の導入により,今までのように捜査段階で自白供述が採取しにくくなる(捜査側の主張であり,それが真実かどうかはともかく)。それゆえ,テロや暴力団など組織犯罪の黒幕処罰を進めるためには,これまでの取調べに頼った証拠採取方法ではない,新たな捜査方法が不可欠となり,そのひとつがこの捜査公判協力型司法取引であるというのです。

日本版「司法取引」が冤罪を生む危険性

 確かに,他人を密告することで不起訴や刑の減免などの利益が与えられるなら,これまでよりも組織犯罪における黒幕処罰のための供述証拠は得られやすくなるかもしれません。改正刑訴法案の提案当時,法務検察がさかんに宣伝した点もそこにあるのでしょう。

 しかし,他人を密告したことで利益を得られるということは,そのような利益にあずかるために無関係の他人を巻き込んでしまう可能性もありうるということになります。ここに他人の犯罪事実を密告する捜査公判協力型司法取引のもつ一番のデメリットがあります。そしてこのような危惧の現実性は,これまで法制度がないにも関わらず,あまた行われてきたいわゆる「闇取引」の実例からも証明済みです。

 最近では,美濃加茂市長による収賄事件がこの「闇取引」による冤罪発生の事例のひとつにあげられます。この事件では,贈賄したとされる人物が他の詐欺案件について不起訴の見返りを得るため,市長への贈賄という虚偽供述を行ったのではないかと言われています。1審名古屋地方裁判所では贈賄したとされる人物の供述が信用できないとされて元市長は無罪となりましたが,高裁では逆転敗訴で有罪となり,最高裁で有罪が確定しました。贈賄側の人間が「確かに金員をわたした」と供述し続けている限り,その供述者が(闇取引とはいえ)不起訴などの利益を受けている場合であっても,供述の信用性が減殺される望みは薄いことをこの事件はあらわしています。

 「司法取引」制度を推進する側は,虚偽の供述には懲役刑(5年以下)の罰則を設けているから簡単に虚偽の取引はなされないし,「司法取引」をする協議・合意には弁護人の立会いが不可欠とされていることから,虚偽の取引が無辜の人を巻き込む危険性は低いといいます。しかし,虚偽の取引に罰則があるということは,いったん虚偽の取引をしてしまった者が引きかえすことを,かえって困難にしてしまいかねません。弁護人の立会いが不可欠だといっても,それはあくまで取引をする側であって,取引の対象となる者が,取引されることを事前に知って弁護人に相談することなど到底不可能であり意味がないのです。

日本版「司法取引」に対してどう向き合うべきか

 このような危険性のある「司法取引」制度に,私たち法律家はどう向き合うべきなのでしょう。これは,「司法取引」をする,またはされた一般市民の方々にとっても,弁護士にどうアドバイスを受けたらいいのかを考えるうえで,重要なことといえるはずです。

 「司法取引」制度は,取調べ可視化制度の導入と引き替えに,新たな捜査手法として法務検察の肝いりで取り入れた制度です。法務検察としては,制度の運用が現実化すれば,まずは財政経済事犯のなかでも,比較的件数の多い組織的詐欺や貸金業法違反などの一般事件から“成功例”を出して,根付かせて行くことを考えているのかもしれません。テロ組織や暴力団組織の関連事件への運用では,多くの国民が賛意を示すこともあるでしょう。しかし,この制度の運用が成功すればするほど,将来的には民主団体への弾圧手段として“応用”される危険性が高まることも間違いありません。

 制度が運用され始めれば,自ら利益を受けるために取引に応じたいとする被疑者の弁護人となることも避けられない場面が出てくるでしょう。その反面,取引の対象となった被疑者・被告人の弁護人となることもあるでしょう。制度の危険性を知るならば,いずれの弁護人になったとしても,冤罪を生む可能性があることを常に念頭に置き,供述に偏重した捜査手法を批判することと同様,客観証拠を中心として,それとの対比で供述の信用性を検討する基本的な態度が,これまで以上に求められます。

 盗聴法の拡大,共謀罪の成立と,これまで止めてきた刑事弾圧立法が次々と成立している今日こそ,刑事司法に関わる弁護士の真価が問われる時代になってきたのかもしれません。

 

この記事は泉澤章弁護士が執筆しました。【関連:刑事事件施行から1年司法取引はどのように運用されているのか

投稿者: 東京合同法律事務所

2018.04.19更新

議院証言法と公文書管理法との間

2018年4月19日 弁護士 荒井新二

 公文書の改ざん・隠蔽あるいはデーターの操作的運用が次々と明るみに出され、安倍内閣・官邸のこれまでの動きに国民の疑惑と怒りが向けられている。私のみるところ、その導火線となったのは、佐川宜壽前財務省理財局長の証人喚問であったと思う。時の流れははやく、いまでは旧聞に属すようだが、今一度振り返ってみたい。

 この喚問の結果は、およそ「刑事訴追のおそれ」を盾にしたゼロ回答であったと言ってよい。予想した結果だ、過去の国会の光景とかわりはなかったという失望とも諦観ともつかぬ反応が世論のうえでは、多かったのではなかったか。なかには佐川氏が立会い弁護士の助言を受けるフリをしてことさらな時間潰しをしていた、という怒りの声が同業者である私に向けられたこともあった。私にしても当初は、白昼堂々と、国会の場で行われた、この佐川喚問に大きな違和感が残った。しかし最近の官僚の国民蔑視のひどさをあらためて目の前に突きつけられると、違和感・失望感がどこから来ているのかが、ほのかに見えてくる感じがする。そこで頭のなかを整理しておきたいと思う。

1 刑事訴追あるいは有罪判決を受ける虞があるので証言を拒絶する、と言うのは佐川氏の私的利益に根ざす。その言い方は、これまで内閣の頻用してきた「現在進行中の捜査に予断を与えたり混乱を招きかねない」という逃げ口上とは違う(そのようなことで捜査が混乱するものか、と思うが今はこれ以上触れない)。円滑な捜査という言い分は公益を表向きの理由にするものだ。これに対し「刑事訴追のおそれ」は、あくまで佐川氏の私的な利益の問題だ。ふたつは全く別の問題である。佐川氏は、当然のように慣例的に、この「刑事訴追のおそれ」を口にしていたが、私利であることにほんとうにどこまで自覚的であったのか、という疑問が湧く。

2 公益と言えば、佐川氏は虚偽,不誠実をもっぱらにしたことで国会の審議を、長期間に亘って混乱させ、諸紛糾の要因を作った。これは、まぎれもなく公益を害する行為と言わざるをえないだろう。そこで証人喚問は、森友学園問題の国会審議がこの間、長時間にわたってひどく、ないがしろにされたことを問い、それを回復する意味があった。被害者とも言うべき国会議員が、その弊害を招き、かつ拡大した当の本人に対峙し、追及するという構図がそこにはあった。最高意思決定機関である国会の権威と信頼が深く傷つけられたことについて、議員諸氏が国民(真の被害者)を代表する公的な立場から問いかけたのである。佐川氏は、自分の私的利害を楯に証言を拒んだ。佐川氏の証言拒絶は、過去の国会での証人喚問とはまるで違う。数々の疑惑事件でも国会で同じ光景をみていたという既視感にも、ときに眉唾をつけたほうがいい。

3 立会いの弁護士が佐川氏の私的利益の確保を見越して証言拒絶を助言したとしても、そのこと自体非難される筋合いではない。しかし私的な利益をほんとうに考えると言うならば、当然に起訴と裁判の量刑のふたつを考慮検討しなければならない。この決裁文書の偽造の問題は、そのもたらした弊害の大きさを考えると、重大な社会的責任を生むものだ。したがって佐川氏に対する刑事訴追の可能性は大きく、率直に言って相当な刑事責任も免れ難い思われる。だとすれば氏の私的利益を考慮するならば、喚問の場で国民に真実を証言し、事後的ではあるが、あらためて混乱した審議の回復を一部なりとも図るべく、国会に協力するという選択もあり得たのではないだろうか。世の中の動きによって、証言拒絶がかえって大きな社会的非難をひきおこして刑事責任全般に影響するという事態がありうるのである。

4 佐川氏の疑惑の対象は、公文書の改ざんである。公文書保存・管理の理念は、高級官僚の地位と経歴を渡ってきた者が知り尽くしていることであろう。役所の仕事は文書でまわっている。私がいちばん驚いたのは、公文書の改ざんという問題に、佐川氏の心のゆらめきが少しも感じ取れなかったことである(近畿財務局所属担当吏員の自死のことは、ここでは論じない)。公文書の保存等は、国民共同の知的資源の保全であるというが、もちろん経済的な意味にとどまるものでない。公的な文書を後世に残し、それを教訓としたり、歴史的な検証に資するという大事な目的がある。公的な政治・行政過程は透明でなければならない。が、やむを得ない事情で不透明部分がある場合でも、それを含めて将来的な検証にさらすことができることが、政治行政過程等の公正さの最終的な担保となる。関係者の生存・利害から離れた時と所で、過去の歴史を検証し、後世の教訓を引き出す重要な歴史的史料となるものである。公文書の改ざんは、歴史の検証・教訓をさらなる誤りに誘引したり、いっそうの誤りを導出する虞が高い。私たちは今日、刑事裁判や訴追をおそれなければならない。それは当然である。が、人は歴史の審判に対しても、その前で頭を垂れて、常に謙虚で、これを畏れるべきなのだ。私が佐川喚問に違和感を感じ、また一番見たかったものは、氏のこの姿であった。

※1議院証言法(議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律)
 第四条 証人は、自己又は次に掲げる者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあるときは、宣誓、証言又は書類の提出を拒むことができる。

※2公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)
 公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」とし、「主権者である国民が主体的に利用し得るものであること」を定めた法律です。政府や独立行政法人の活動が適正であったのか現在及び将来の国民に説明し、国民主権の理念を実現することを目的としています。

 

【弁護士紹介】
 荒井新二弁護士は、弁護士登録以来48年間港区の当事務所に在籍し、多くの事件解決に関わってきました。全国の事件で弁護団にも多く参加しています。近著に『なぜ母親は娘を手にかけたのか 居住貧困と銚子市母子心中事件』(旬報社、編著)。

投稿者: 東京合同法律事務所

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