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2018.05.21更新

過労死のイメージイラスト

弁護士の市橋耕太です。

現在、国会では「働き方改革」関連法案の審議が行われていますが、その中に「高度プロフェッショナル制度」というとんでもない内容が含まれているのをご存知でしょうか?

例えば、次のような働き方が許されるのか、考えてみてください。

①24時間連続で働く(休憩無し)

②残業を月に200時間行う(※月80時間以上の残業をすると、過労死の危険が急激に高まると言われています)

③24日間、休み無しで働く

こんなこと許されるはず(許されて良いはず)ないだろ!というのが正常な反応だと思います。
しかし、高度プロフェッショナル制度の下では、これらはいずれも違法ではありません。
さらに極論すると、「24時間勤務を48日間連続(24×48=1152時間連続)で行わせる」ことも可能です。
・・・おそろしいですよね。間違いなく過労死してしまいますね。

高度プロフェッショナル制度とは、対象となる労働者について労働基準法が定める労働時間規制(「労働時間は原則1日8時間・1週40時間」とか「週に1日は休日を与えなければならない」など)を適用除外する(法律による保護から放り出す)という制度です。
一定の「健康確保措置」なるものが義務づけられますが、その下でも先ほどの「24時間×48日間勤務」は許されるのです。
これで「健康確保」できるでしょうか・・・。

法案では、「高度の専門的知識等を必要とする」などといった要件で対象業務を絞り、およそ1000万円以上という年収要件を定めて、対象労働者を限定するとしています。
しかし、対象業務は法律ではなく省令(国会での議論なしで定められる)で決めるものとされています。
また、年収要件についても将来的に引き下げられることは間違いありません。現に、塩崎前厚労大臣は、「小さく産んで大きく育てる」という本音をこぼしていますし、経団連は「年収400万円まで要件を下げるべきだ」との意見を出しています。
かつては原則禁止だった労働者派遣も、少しずつ適用対象が広げられて、今では原則OKになってしまっていますよね。
こうしたことからも、決して「お金持ちのエリートの制度」ではなくて、全労働者に影響のある法案なのです。

こんなおそろしい法案が、今週中にも衆議院で強行採決されると報じられています。
しかし、その問題点が十分に議論されないまま、上記のような間違いなく過労死してしまうような働き方を防止する措置もとられずに採決するなど、絶対に許してはなりません。

皆さまにおいても、高度プロフェッショナル制度の危険性を広めて、反対の声を大きくしていただければと思います!
私の所属している日本労働弁護団では、明日5月22日に日比谷野外音楽堂で大きな集会を行います。普段こういった集会に参加したことがないという方でも、これ以上過労死を増やしたくない!という方は、ぜひご参加ください。
詳細は以下からご覧ください。

日本労働弁護団http://roudou-bengodan.org/topics/7037/

 20180522日比谷野音集会

 

投稿者: 東京合同法律事務所

2018.05.10更新

「身に覚えのない料金を請求するハガキやメールが届いた」

「支払わないと訴訟手続きを開始するとあるが、大丈夫なのか」

 近年、全国の消費生活センターに寄せられる架空請求の相談が急増しています。2016年は8万件だった相談数が2017年には18万件と倍増し、実在の大手通販サイトをかたるものやスマホのアプリやサイト利用料として請求されるものなど手口は多様で巧妙になっています。

①「アプリの未納料金があり、1週間以内に連絡しないと裁判を起こす」というショートメッセージがスマホに届き、連絡をとると5万円のサイト利用料を請求された。

②大手通販サイトの担当者を騙る者から未払い料金請求のショートメッセージが届き、返済はコンビニのプリペイドカードを買ってシリアル番号を教えるよう指示された。

③一度支払った後、別の事業者を騙る者からも請求があり今なら安くすむなどと言われ支払ってしまった。

④アップルやSNSアプリのアカウントの管理会社を騙る者から、アカウントに問題があるというURLリンク付きのショートメッセージが届き、技術的なサービス料として料金を請求された。

 ここに挙げたのはあくまで一例ですが、身の回りのあらゆる事を架空請求の手口として利用しようとしています。振り込み方法もATMとは限らず、プリペイドカードのシリアル番号や現金の手渡しなど多様です。裁判所など公的機関や弁護士の名を騙るケースもあります。

しんぶん赤旗「くらしの相談室」コーナーに泉澤章弁護士のアドバイスが掲載されました。

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 法務省や裁判所などと記されていると、普通ビクッとするでしょう。そこがだます側のねらい目です。
 しかし、公的な重要文書が、電子メールやショートメール、はがき1枚で送られてくることは、まずありません。
 また、「本日ご連絡なき場合は法的手続に移行する」とあったり、「取り下げの最終期日○月○日」など、たった数日後の期日を記していたりしますが、これは相手を慌てさせる詐欺の常とう手段です。公的機関がそんな短時間に返事を求めることはありません。
 「プライバシー保護のため、必ずご本人様からご連絡頂きます様」などという書き方で、周囲に相談させにくくさせるのも、ありがちな手口です。
 こうしたメールが来ても対応しないこと。また、はがきにある電話番号には絶対電話せず、メールのURLリンクは絶対クリックせず、全国の消費生活センターや知り合いの弁護士など確かなところに相談しましょう。うっかり電話してお金を請求されたり、プリペイドカードを買えと言われても、応じる必要はありません。

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 もしも本当に支払いが滞るなどしており、裁判所から正式な訴状や督促状が届いたり、債権者側の弁護士から通知がきたら、まずは弁護士にご相談下さい。

 万一、詐欺でお金をだまし取られてしまった場合、詐欺師が逮捕され有罪が確定した後、賠償請求の民事裁判の判決に基づいてだまし取られたお金を回収することになります。賠償命令を無視して詐欺師が支払いに応じない場合には強制執行で債権を回収することになります。しかし、回収が長期間に渡ることや、被害の全額を回収することが難しいケースもあり得ます。

「対応しない、電話しない」ことを原則にまずは確かなところに相談し、架空請求の被害に合わないよう、どうかご注意下さい。

 

【関連:泉澤章弁護士消費者トラブルに関するお悩み

投稿者: 東京合同法律事務所

2018.05.07更新

弁護士 泉澤章

日本版「司法取引」の施行開始

 今年(2018年)6月1日から日本版「司法取引」がいよいよ施行されます。施行を前にした今年3月16日には,政令で定めることになっていた財政経済犯罪(刑事訴訟法350条の2第2項2号)について閣議決定がなされました。政令では対象となる「特定犯罪」に,脱税や独禁法違反,金融商品取引法違反,特許法違反,貸金業法違反,破産法における詐欺破産,会社法の特別背任などがつけ加えられることになりました。また同月19日に最高検は,全国の地検と高検に基本的な運用方針をまとめた通達を出しました。

日本版「司法取引」制度の特徴

 日本版「司法取引」制度は2016年,可視化制度の導入や盗聴法の拡大などとともに刑事司法制度改革によって新設されました。その特徴を一言でいえば,自ら犯した犯罪事実を取引材料にして自ら不起訴や刑の減免を得る,いわゆる自己負罪型の取引ではなく,他人の犯罪事実を取引材料にして自らの不起訴や刑の減免を得るいわゆる捜査公判協力型の司法取引であるということです。捜査公判協力型などと小難しくいえば聞こえはいいですが,要は他人を「売る」ことであり,「密告型」の司法取引といってもいいでしょう。

 自己負罪型司法取引の典型例として,アメリカの司法取引が良くあげられる。重い罪を犯した犯人でも罪を自ら認めれば軽い刑で済むという,テレビや映画にも良く出てくる制度です。重罪を犯していることが確実なのに軽い罪ですぐ釈放されてしまうというところに,腑に落ちない日本人は多いと思われますが,アメリカではこうでもしないと大量の刑事事件を処理することがおよそ不可能であると言われているようです。

 改正刑事訴訟法の成立過程で,日本では自己負罪型の司法取引ではなく,捜査公判協力型の司法取引を導入することに決まりました。日本で捜査公判型の司法取引制度が導入されたのには,この新制度の導入が,取調べ可視化制度の導入とのバーターであったことが大きく影響していると思われます。取調べ可視化制度の導入により,今までのように捜査段階で自白供述が採取しにくくなる(捜査側の主張であり,それが真実かどうかはともかく)。それゆえ,テロや暴力団など組織犯罪の黒幕処罰を進めるためには,これまでの取調べに頼った証拠採取方法ではない,新たな捜査方法が不可欠となり,そのひとつがこの捜査公判協力型司法取引であるというのです。

日本版「司法取引」が冤罪を生む危険性

 確かに,他人を密告することで不起訴や刑の減免などの利益が与えられるなら,これまでよりも組織犯罪における黒幕処罰のための供述証拠は得られやすくなるかもしれません。改正刑訴法案の提案当時,法務検察がさかんに宣伝した点もそこにあるのでしょう。

 しかし,他人を密告したことで利益を得られるということは,そのような利益にあずかるために無関係の他人を巻き込んでしまう可能性もありうるということになります。ここに他人の犯罪事実を密告する捜査公判協力型司法取引のもつ一番のデメリットがあります。そしてこのような危惧の現実性は,これまで法制度がないにも関わらず,あまた行われてきたいわゆる「闇取引」の実例からも証明済みです。

 最近では,美濃加茂市長による収賄事件がこの「闇取引」による冤罪発生の事例のひとつにあげられます。この事件では,贈賄したとされる人物が他の詐欺案件について不起訴の見返りを得るため,市長への贈賄という虚偽供述を行ったのではないかと言われています。1審名古屋地方裁判所では贈賄したとされる人物の供述が信用できないとされて元市長は無罪となりましたが,高裁では逆転敗訴で有罪となり,最高裁で有罪が確定しました。贈賄側の人間が「確かに金員をわたした」と供述し続けている限り,その供述者が(闇取引とはいえ)不起訴などの利益を受けている場合であっても,供述の信用性が減殺される望みは薄いことをこの事件はあらわしています。

 「司法取引」制度を推進する側は,虚偽の供述には懲役刑(5年以下)の罰則を設けているから簡単に虚偽の取引はなされないし,「司法取引」をする協議・合意には弁護人の立会いが不可欠とされていることから,虚偽の取引が無辜の人を巻き込む危険性は低いといいます。しかし,虚偽の取引に罰則があるということは,いったん虚偽の取引をしてしまった者が引きかえすことを,かえって困難にしてしまいかねません。弁護人の立会いが不可欠だといっても,それはあくまで取引をする側であって,取引の対象となる者が,取引されることを事前に知って弁護人に相談することなど到底不可能であり意味がないのです。

日本版「司法取引」に対してどう向き合うべきか

 このような危険性のある「司法取引」制度に,私たち法律家はどう向き合うべきなのでしょう。これは,「司法取引」をする,またはされた一般市民の方々にとっても,弁護士にどうアドバイスを受けたらいいのかを考えるうえで,重要なことといえるはずです。

 「司法取引」制度は,取調べ可視化制度の導入と引き替えに,新たな捜査手法として法務検察の肝いりで取り入れた制度です。法務検察としては,制度の運用が現実化すれば,まずは財政経済事犯のなかでも,比較的件数の多い組織的詐欺や貸金業法違反などの一般事件から“成功例”を出して,根付かせて行くことを考えているのかもしれません。テロ組織や暴力団組織の関連事件への運用では,多くの国民が賛意を示すこともあるでしょう。しかし,この制度の運用が成功すればするほど,将来的には民主団体への弾圧手段として“応用”される危険性が高まることも間違いありません。

 制度が運用され始めれば,自ら利益を受けるために取引に応じたいとする被疑者の弁護人となることも避けられない場面が出てくるでしょう。その反面,取引の対象となった被疑者・被告人の弁護人となることもあるでしょう。制度の危険性を知るならば,いずれの弁護人になったとしても,冤罪を生む可能性があることを常に念頭に置き,供述に偏重した捜査手法を批判することと同様,客観証拠を中心として,それとの対比で供述の信用性を検討する基本的な態度が,これまで以上に求められます。

 盗聴法の拡大,共謀罪の成立と,これまで止めてきた刑事弾圧立法が次々と成立している今日こそ,刑事司法に関わる弁護士の真価が問われる時代になってきたのかもしれません。

 

この記事は泉澤章弁護士が執筆しました。【関連:刑事事件施行から1年司法取引はどのように運用されているのか

投稿者: 東京合同法律事務所

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