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2020.03.12更新

わが国の法治主義をおびやかす「黒川東京高等検察庁検事長定年延長」問題について

 国民生活に多大の影響をあたえている新型コロナウィルス問題でテレビ、新聞の報道欄が埋められる中でも、決して埋もれさせてはならない問題があります。その一つが今年1月31日に内閣が閣議決定したと報じられた黒川弘務東京高等検察庁検事長の定年延長問題です。たったひとりの検察官の定年延長がなぜ大問題になるのか?

 確かに多くの国民にとってこの問題は生活に密着したものではないし、難しい法律の解釈が絡むので、敬遠したい問題かもしれません。しかしこの問題は、単に一検察官の定年を延長するのが良いか悪いかというのではなく、わが国の法治主義を根底からおびやかす危険性をはらんでいるのです。
 1947年の日本国憲法施行とともに制定された検察庁法は、検事総長は65歳、その他の検察官は63歳で定年とすると定めましたが、同じ年に制定された国家公務員法には定年の規定はありませんでした。これは、同じ国家公務員のなかでも検察官は、ときの政権にある国会議員をも訴追する強力な権限が与えられ、行政機関の一員でありつつ、公正・公平な権限行使が強く求められているということからきています。権力の恣意的な人事介入によって、権力に都合の悪い検察官を勝手にやめさせたり、逆に権力に従順な検察官に延々とトップを務めさせることを防ぐ意味があったのです。

 時代は下って1981年、さすがに一般国家公務員だけ定年規定がないのはバランスがとれないことから、国家公務員法は改正され、定年制度が設けられます。そしてこのとき、国家公務員には定年延長も例外的にありうるとの規定が設けられましたが、それは「別段の定め」があるときは除くとされていました。そしてその「別段の定め」が検察庁法であることは、当時の政府も国会で答弁していました。つまり、国家公務員法であらたに規定された定年延長制度が検察官には適用されないことは、法律の制定当時から「当然」とされていたわけです。その後今回の問題が起きるまで、検察庁法は政府答弁どおり運用され続けてきました。

 ところが、安部政権は今年になって突如、今年2月7日に定年となる黒川東京高検検事長について、半年間定年を延長すると発表しました。検察庁法が制定されて73年、国家公務員法が改訂されて39年も経って、しかも法律を国会で審議して法改正によって延長するのではなく、一内閣の勝手な「解釈」によっての変更です。これは過去の政府答弁にも反することであり、国会で野党からその点を突かれると、森雅子法務大臣は、まさに「迷走」というしかない答弁を繰り返しました。
 このような惨憺たる状況を見て、ついに現役の検事正からも「国民からの検察に対する信頼が損なわれる」という声が出る始末です。
 安倍政権が黒川東京高等検察庁検事長の定年延長にこだわる背景には、現政権に特に従順で、政治家の訴追に後ろ向きといわれる同人を、次の検事総長に据えるためだという見方があります。集団的自衛権の解釈変更問題、森友・加計問題や「桜を見る会」問題にもみられるように、国政を私物化し、法律に違反してでも、自らを取り巻く人物のみを優遇する安倍政権のいつものやり方というわけです。今回の検事長定年延長でも安倍政権は、法律を無視し、法治主義を根底から覆そうとしています。わが国の法治主義を護り、日本国憲法を破壊させないためには、この問題をこのままにしておくことは絶対にできないのです。

弁護士 泉澤章

投稿者: 東京合同法律事務所

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