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2021.03.22更新

 皆さんは外国人技能実習制度をご存じでしょうか?外国人技能実習制度は、日本で技能実習にて経験した技能・技術や知識の開発途上地域などへの移転を目指し、開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」に貢献する国家協力の推進を目的・趣旨として実施されています。この目的・趣旨は1993年に技能実習制度が創設されてから、終始一貫した考え方であり、技能実習法の基本理念として、第一章 総則 第3条に「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」と規定されています。
 しかしながら、その実態は制度の趣旨・目的とはかけ離れたものになっています。今回の記事では、私たちが刑事弁護活動を行ったベトナム人技能実習生のAさんを例に外国人技能実習生の実態をご紹介します。

 Aさんは、2018年10月に、技能実習生として来日し、実習実施機関の水産会社で魚の養殖やコンテナへの詰み込み作業を行っていました。労働契約上の労働時間は午前8時から午後5時までで、休憩時間が1時間となっていましたが、実際には休憩時間は30分しか与えられず、長時間の労働を強いられていました。このような過酷な労働環境の中で、Aさんは2020年2月に職を辞め、東京の友人宅を転々としてウーバーイーツで生計を立てました。しかし、友人と被害者のトラブルに巻き込まれて、面識のなかった被害者をハサミで刺してしまうという傷害事件を起こし、逮捕されてしまったのです。私たちは、逮捕当時にAさんを支援していた「NPO法人日越ともいき支援会」から連絡を受け、Aさんの刑事弁護をすることになりました。

 Aさんはまったく日本語が話せないので、通訳人を連れて接見に向かいました。Aさんは被疑事実を認めましたが、被害者から襲われそうになった友人らを守るためにとっさに犯行に及んだことを強調していました。Aさんは、日本に何とかして残りたいという強い希望を持っていたため、私たちは直ちに被害者との示談交渉を行いました。最終的に、勾留延長満期日直前に示談が成立し、Aさんは不起訴処分になりました。釈放後、Aさんは、ともいき支援会の支援もあって農園に勤め、、熱心に働いており、そのまじめな性格から、日本語の習得や日本文化の受容にも積極的に努めています。

 刑事事件では、逮捕から勾留後、検察官の処分が決定されるまで長くても約3週間です。その間に、被疑者との接見を通じて事件の概要を把握し、必要があればその家族に連絡をとり、被害者との速やかな示談交渉が求められます。
 今回、私たちが非常に苦労したのは、被害者の人との連絡をとるのに時間がかかったということです。通常、弁護人は事件を担当する検察官を通して被害者に接触を図ります。しかし、今回は被害者もベトナム人で、日本語でのコミュニケーションが困難であったという事情もあり、検察官もなかなか被害者との連絡がつかない状態で、限られた時間の中で示談交渉を進めなければなりませんでした。

 本件は、刑事事件としては知人同士のトラブルが傷害事件に発展したものですが、背景には外国人技能実習生の問題が深く関係していました。Aさんも派遣先で長時間の重労働を課されていました。
 技能実習制度の問題は、実習生が不当に扱われた場合にその問題が表面化しにくいという点も特徴的です。表面化しにくい理由は、実習生の立場が圧倒的に弱いことにあります。技能実習制度は在留資格と深く結びついており、実習先とトラブルを起こすと祖国に帰らざるを得なくなることが少なくありません。日本で技能実習をするために祖国から来ている実習生や、祖国の家族に仕送りをしている実習生など、実習を継続するため実習先の違法行為について訴えることができないケースが多いため、違法行為が表面化しにくいのです。
 今回のAさんは、支援団体に辿り着き適切な支援を受けることができましたが、実習生の中には、パワハラやセクハラ、経済搾取といった実習先でのトラブルや、実習先から逃げ出してきた先でトラブルに巻き込まれ刑事事件に発展するケースが多くあります。
 当事務所では、このような外国人技能実習生問題の背景も考慮しながら、刑事事件だけでなく、トラブルに巻き込まれた技能実習生の再出発を目標に事件解決に取り組んでまいります。

弁護士 小河洋介
弁護士 油原麻帆

【リンク】NPO法人日越ともいき⽀援会 (nv-tomoiki.or.jp)

投稿者: 東京合同法律事務所

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