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2018.04.19更新

議院証言法と公文書管理法との間

2018年4月19日 弁護士 荒井新二

 公文書の改ざん・隠蔽あるいはデーターの操作的運用が次々と明るみに出され、安倍内閣・官邸のこれまでの動きに国民の疑惑と怒りが向けられている。私のみるところ、その導火線となったのは、佐川宜壽前財務省理財局長の証人喚問であったと思う。時の流れははやく、いまでは旧聞に属すようだが、今一度振り返ってみたい。

 この喚問の結果は、およそ「刑事訴追のおそれ」を盾にしたゼロ回答であったと言ってよい。予想した結果だ、過去の国会の光景とかわりはなかったという失望とも諦観ともつかぬ反応が世論のうえでは、多かったのではなかったか。なかには佐川氏が立会い弁護士の助言を受けるフリをしてことさらな時間潰しをしていた、という怒りの声が同業者である私に向けられたこともあった。私にしても当初は、白昼堂々と、国会の場で行われた、この佐川喚問に大きな違和感が残った。しかし最近の官僚の国民蔑視のひどさをあらためて目の前に突きつけられると、違和感・失望感がどこから来ているのかが、ほのかに見えてくる感じがする。そこで頭のなかを整理しておきたいと思う。

1 刑事訴追あるいは有罪判決を受ける虞があるので証言を拒絶する、と言うのは佐川氏の私的利益に根ざす。その言い方は、これまで内閣の頻用してきた「現在進行中の捜査に予断を与えたり混乱を招きかねない」という逃げ口上とは違う(そのようなことで捜査が混乱するものか、と思うが今はこれ以上触れない)。円滑な捜査という言い分は公益を表向きの理由にするものだ。これに対し「刑事訴追のおそれ」は、あくまで佐川氏の私的な利益の問題だ。ふたつは全く別の問題である。佐川氏は、当然のように慣例的に、この「刑事訴追のおそれ」を口にしていたが、私利であることにほんとうにどこまで自覚的であったのか、という疑問が湧く。

2 公益と言えば、佐川氏は虚偽,不誠実をもっぱらにしたことで国会の審議を、長期間に亘って混乱させ、諸紛糾の要因を作った。これは、まぎれもなく公益を害する行為と言わざるをえないだろう。そこで証人喚問は、森友学園問題の国会審議がこの間、長時間にわたってひどく、ないがしろにされたことを問い、それを回復する意味があった。被害者とも言うべき国会議員が、その弊害を招き、かつ拡大した当の本人に対峙し、追及するという構図がそこにはあった。最高意思決定機関である国会の権威と信頼が深く傷つけられたことについて、議員諸氏が国民(真の被害者)を代表する公的な立場から問いかけたのである。佐川氏は、自分の私的利害を楯に証言を拒んだ。佐川氏の証言拒絶は、過去の国会での証人喚問とはまるで違う。数々の疑惑事件でも国会で同じ光景をみていたという既視感にも、ときに眉唾をつけたほうがいい。

3 立会いの弁護士が佐川氏の私的利益の確保を見越して証言拒絶を助言したとしても、そのこと自体非難される筋合いではない。しかし私的な利益をほんとうに考えると言うならば、当然に起訴と裁判の量刑のふたつを考慮検討しなければならない。この決裁文書の偽造の問題は、そのもたらした弊害の大きさを考えると、重大な社会的責任を生むものだ。したがって佐川氏に対する刑事訴追の可能性は大きく、率直に言って相当な刑事責任も免れ難い思われる。だとすれば氏の私的利益を考慮するならば、喚問の場で国民に真実を証言し、事後的ではあるが、あらためて混乱した審議の回復を一部なりとも図るべく、国会に協力するという選択もあり得たのではないだろうか。世の中の動きによって、証言拒絶がかえって大きな社会的非難をひきおこして刑事責任全般に影響するという事態がありうるのである。

4 佐川氏の疑惑の対象は、公文書の改ざんである。公文書保存・管理の理念は、高級官僚の地位と経歴を渡ってきた者が知り尽くしていることであろう。役所の仕事は文書でまわっている。私がいちばん驚いたのは、公文書の改ざんという問題に、佐川氏の心のゆらめきが少しも感じ取れなかったことである(近畿財務局所属担当吏員の自死のことは、ここでは論じない)。公文書の保存等は、国民共同の知的資源の保全であるというが、もちろん経済的な意味にとどまるものでない。公的な文書を後世に残し、それを教訓としたり、歴史的な検証に資するという大事な目的がある。公的な政治・行政過程は透明でなければならない。が、やむを得ない事情で不透明部分がある場合でも、それを含めて将来的な検証にさらすことができることが、政治行政過程等の公正さの最終的な担保となる。関係者の生存・利害から離れた時と所で、過去の歴史を検証し、後世の教訓を引き出す重要な歴史的史料となるものである。公文書の改ざんは、歴史の検証・教訓をさらなる誤りに誘引したり、いっそうの誤りを導出する虞が高い。私たちは今日、刑事裁判や訴追をおそれなければならない。それは当然である。が、人は歴史の審判に対しても、その前で頭を垂れて、常に謙虚で、これを畏れるべきなのだ。私が佐川喚問に違和感を感じ、また一番見たかったものは、氏のこの姿であった。

※1議院証言法(議院における証人の宣誓及び証言等に関する法律)
 第四条 証人は、自己又は次に掲げる者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれのあるときは、宣誓、証言又は書類の提出を拒むことができる。

※2公文書管理法(公文書等の管理に関する法律)
 公文書を「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」とし、「主権者である国民が主体的に利用し得るものであること」を定めた法律です。政府や独立行政法人の活動が適正であったのか現在及び将来の国民に説明し、国民主権の理念を実現することを目的としています。

 

【弁護士紹介】
 荒井新二弁護士は、弁護士登録以来48年間港区の当事務所に在籍し、多くの事件解決に関わってきました。全国の事件で弁護団にも多く参加しています。近著に『なぜ母親は娘を手にかけたのか 居住貧困と銚子市母子心中事件』(旬報社、編著)。

投稿者: 東京合同法律事務所

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