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変額保険

 

1 変額保険事件とは
(1) 変額保険とは
 変額保険とは、「その資産を株式や債権などの有価証券に投資し、 その運用成果に応じて保険金額や解約返戻金額が変動するしくみの生命保険」(大蔵省保険第一課内変額保険研究会監修 「変額保険ガイド」6頁)です。
 定額保険と比較した場合の特徴は、次のとおりです。
 ①保険金・解約返戻金が変動する。
 ②契約者が保険資産の運用リスクを負う。
 ③保険資産が投機的に運用される。
 従来、生命保険は安全な商品でしたが、この変額保険はハイリスクハイリターンの投機的商品であり、 従前の生命保険と根本的に性質を異にします。
<参考文献>
 保険毎日新聞社「新変額保険入門」
 大蔵省保険第一課内変額保険研究会監修「変額保険ガイド」

(2)融資一体型変額保険とは
 平成元年から同3年にかけて、相続対策を目的として、融資一体型変額保険が販売されました。この融資一体型変額保険は、 変額保険契約と融資契約をセットにした、特殊なしくみの商品です。
 セットとされている保険契約及び融資契約の内容は次のとおりです。①変額保険契約は、保険料の支払方法が一時払い (契約の当初に保険料の全額を一括して支払う)で、②融資契約は、元金の返済方法が期日一括返済となっており、また、 月々発生する利息も順次融資されていくこととされていました。
 すなわち、①保険料全額に相当する金額の融資を受けて、②保険料全額を払い込んで保険加入し、 ③借入金の利息は順次貸し増しされ、④相続発生時に保険金(ないし解約返戻金) を用いて元金及び利息の返済を行うというしくみの商品でした。
*大阪地裁平成12年12月22日判決(金融・商事判例1110号26頁以下)にならい、このHPでは「融資一体型変額保険」 という文言を用いています。

(3)当時どのような勧誘が行われたのか
 有効な相続対策として、勧誘されました。
 相続税対策効果を試算したシミュレーションを用いて、銀行・生命保険会社により、精力的な勧誘が行われました。 当時勧誘に用いられたシミュレーションでは、数千万円から数億円の相続税対策効果が得られるというものもありました。
<資料>
 また、村瀬敏彦「変額保険を利用した相続対策」(生保FAジャーナル90年9月号22頁以下)は、当時の勧誘員の立場から、 図やシミュレーションを示しながら融資一体型変額保険の解説を行っています。

(4)融資一体型変額保険の販売・ 勧誘の問題点はどこにあったのか
①変額保険は投機的商品であり、融資一体型変額保険は、保険の運用が高率であるときには相続税対策効果が得られますが、 保険の運用が悪いと相続税対策どころか、契約者(ないし相続人)に巨額の損失を負わせることになります。
<資料>
この点については、坂勇一郎「危険な商品、変額保険」(法学セミナー506号19頁以下)で解説を試みました。
 また、融資一体型変額保険のリスクについては、既に多くの判例も認定しています。例えば、 大阪地裁平成12年12月22日判決(金融・商事判例1110号26頁以下)、東京高裁平成12年9月11日判決 (判例時報1724号48頁以下)等。
 ②勧誘に際しては、相続税対策としての有利性のみが強調され、リスクを正確に説明することが行われませんでした。
 その結果、多くの顧客が、融資一体型変額保険のリスクについて正確な認識を得られないまま、契約を決断してしまいました。
 
(5)被害の実状
 融資一体型変額保険の契約が行われたのは、平成元年から平成3年にかけてです。
 平成元年年末をピークにバブル経済が崩壊し、変額保険の運用は悪化の一途をたどり、 融資一体型変額保険のリスクが現実のものとなりました。契約者は、数千万から数億円の債務、 しかも損失額が日々増大する負担を負わされることになりました。
 日本弁護士連合会消費者問題対策委員会「変額保険・不動産共同投資事件と融資者責任」は、被害者の会のアンケート結果を基に、 被害の実態を分析し、その特徴として次の点を指摘しています。
 ①被害者に、土地を所有する高齢者が多いこと
 ②被害額が高額であること
 ③被害状況が深刻であること(複数の自殺者が出ています)
<資料>
日本弁護士連合会消費者問題対策委員会「変額保険・不動産共同投資事件と融資者責任」(1995年12月)
2 融資一体型変額保険販売の背景
(1)販売された時期(平成元年~平成3年)
 融資一体型変額保険が本格的に販売されたのは、平成元年秋から平成3年秋にかけてです。 この時期の経済状況をふりかえってみると、次のとおりです。
 ①地価高騰により相続税の負担をおそれた時代
 バブル経済の結果大都市近郊の地価が高騰し、不動産所有者にとって相続税の負担が、大きな不安となっていました。 (平成2年3月のいわゆる総量規制により、平成2年末頃より地価は沈静化しつつありましたが、 なお多くの人々が相続税の不安を抱えていた時期でした。)
 ②バブル経済がピークを打って崩壊していった過程
 株価は、平成元年末にピークを打ち、平成2年初より下落していきました。下落の過程で、平成2年8月イラクのクェート侵攻、 平成3年1月湾岸戦争、平成3年7月証券不祥事等が起こりました。
③銀行・生命保険会社が信頼を得ていた時代
 現在と異なり当時は、一般個人顧客にとって、銀行・生命保険会社は堅実な営業を行う企業として、絶大な信頼を得ていました。 こうした一般個人の信頼は、厳格な審査に基づいて融資を行っていたバブル以前の銀行経営や、 保証を旨としてリスク商品を取り扱わなかった従前の生命保険経営の記憶に裏付けられたものでした。

(2)融資一体型変額保険を売りたかった銀行の事情
①個人への融資を増大させたい
 80年代を通じて企業は資金調達を株式市場に頼るようになり、銀行の企業向け(特に製造業)融資は伸び悩みました。銀行は、 新しい融資先として、個人顧客を開拓するようになり、80年代後半を通じて個人への融資は飛躍的に増大しました。
 銀行にとって、融資一体型変額保険は、大口の融資を獲得する重要な一手段でした。
 ②BIS規制対策
当時銀行業界では、導入されるBIS規制への対応が、焦眉の課題の一つでした。この対策の一つとして、 変額保険融資を増大させることに利益がありました。

(3) 融資一体型変額保険を売りたかった生命保険会社の事情
①金融自由化の中での営業拡大
 80年代を通じて金融自由化が進められましたが、生命保険業界でも競争が激化しました。他方、生命保険契約は全国に行き渡り、 新規の需要の開拓は容易でない状況でした。
こうした中で、融資一体型変額保険は、大口の契約を獲得できる重要な商品でした。
 ②リスクを負わない形での契約を
 従来の保険商品では、保険資産の運用のリスクは保険会社が負うこととなっていました。当時、 生命保険会社では競争によって保険の予定利率が高止まりしており、運用リスクの負担が無視しえない状況となっていました。
 しかし、変額保険は運用リスクを顧客が負うことになるので、保険会社は、 運用リスクを負うことなく販売を拡大できるメリットがありました。

(4)株価を支えたい銀行・生命保険会社・大蔵省
融資一体型変額保険により、変額保険契約を通じて多額の資金が株式市場に流入することになります。こうした資金の流れは、 下落する株価を買い支える役割を果たしたと考えられます。株価を支えることには、銀行・生命保険会社・大蔵省は、 それぞれに利益を有していました。
①銀行 BIS規制をクリアするためには、(銀行の保有している株式の)株価が下落することはマイナスとなります。
 ②生命保険会社 株価の下落は、保険資産を悪化させます。(当時、生命保険会社は、 外国債券の含み損を株式の含み益で補っているという状況にありました。)
 ③大蔵省 日本発世界同時暴落の防止、景気の安定、税収の確保等、多面的に利害を有していました。
3 銀行・生命保険会社・大蔵省の責任
(1)生命保険会社
①変額保険は投機的商品であり、融資一体型変額保険は、保険の運用が高率であるときには相続税対策効果が得られますが、 保険の運用が悪いと相続税対策どころか、契約者(ないし相続人)に巨額の損失を負わせることになります。 このような危険な商品を、一般個人顧客に勧誘・販売すること自体問題です。
 ②勧誘に際しては、相続税対策としての有利性のみが強調され、リスクを正確に説明することが行われませんでした。その結果、 多くの顧客が、融資一体型変額保険のリスクについて正確な認識を得られないまま、契約を決断してしまいました。 適正な説明を行うことなく、有利性のみを強調した販売姿勢については、責任が問われねばなりません。
<生命保険会社の責任に関する生命保険会社の主張・対応>

<生命保険会社の責任に関する議論>

<参考判例>

(2)銀行の責任
①変額保険は投機的商品であり、融資一体型変額保険は、保険の運用が高率であるときには相続税対策効果が得られますが、 保険の運用が悪いと相続税対策どころか、契約者(ないし相続人)に巨額の損失を負わせることになります。 このような危険な商品を、一般個人顧客に勧誘・販売すること自体問題です。
 ②勧誘に際しては、相続税対策としての有利性のみが強調され、リスクを正確に説明することが行われませんでした。その結果、 多くの顧客が、融資一体型変額保険のリスクについて正確な認識を得られないまま、契約を決断してしまいました。 適正な説明を行うことなく、有利性のみを強調した販売姿勢については、責任が問われねばなりません。
<銀行の責任に関する銀行の主張・対応>

<銀行の責任に関する議論>

<参考判例>
 「当該銀行が、当該顧客において変額保険に興味を示していることを察知して、これを保険会社に紹介し、 当該保険会社の勧誘員と共同して当該顧客に対し、変額保険の契約とその保険料支払いのための融資を積極的に勧誘し、 あるいは勧誘員に対し勧誘のためのアドバイスをするなどの関与を積極的に行った場合には、その課程で、 保険会社の勧誘員の説明内容を正して補足させ、あるいは、自らそれを補足して、 当該顧客に誤解が生じないよう是正すべき信義則上の説明義務を負うというべきであ」る(大阪地裁平成12年12月22日判決、 金融・商事判例1110号26頁以下。なお残念ながら、このような銀行の責任を認める判示は、未だ多数とはなっていません)。

(3)大蔵省の責任
 1980年代、大蔵省は、日本の金融自由化を進展させました。金融自由化により、堅実な融資審査を行っていた銀行は、 融資審査をゆるめ、むしろ自らリスクのある融資案件を顧客に売り込むようになりました。また、生命保険会社は、 リスクのない保険商品のみならず、顧客に投資リスクを負わせる保険商品を売り出すに至りました。
 一般の個人顧客は、堅実な審査を行う銀行、 堅い商品を売る保険会社という長年の経験により定着してきた認識を持っていましたが、こうした銀行・ 生保等金融機関の変化を十分知らされることなく、また、十分注意喚起されることもありませんでした。
 契約者保護のルールなき自由化が進められたため、多くの契約者が、それとは知らされずに、 リスクだらけの金融取引を行いました。そして、リスクが現実のものとなり、多くの契約者が巨額の損失を抱えることになりまいた。 契約者保護のルールなき自由化を進めてきたのは、行政当局すなわち当時の大蔵省に他なりません。
4 裁判所の判断と解決状況
(1) 裁判所の判断の概況
 変額保険事件の判決状況(平成12年11月末日まで)は次のとおりです。
      判決事件数  410件
      請求認容事件数(一部勝訴を含む) 42件
 原告の請求が認められているのは、概ね1割程度にすぎません。特に、銀行の責任を認めたものは、 上記の請求認容事件数42件のうちでも僅かです。
 裁判所には、商品のリスクに関する説明は必ずしも不十分ではなかった、 融資業者等が販売業者である保険会社と一体となったとはいえない、という見方(上記の大蔵省の認識とは反対の認識) が根強くあります。
<資料>消費者法ニュース・各年の消費者白書における「変額保険」部分

(2)裁判所の判決の特徴
 裁判所の判断は基本的に二つの流れがあります。
 ①勧誘経過全体をみて、誤解を与える説明勧誘が行われており、(融資型) 変額保険に関する説明はとおり一遍の極めて不十分なものであったとして、生命保険会社(ないし銀行) 側の責任を認めるもの
 ②変額保険についての説明があったか否かを中心に検討し、 説明があったとして生命保険会社及び銀行の責任を否定するもの
(この対比は一審と控訴審で判断が分かれている大阪地判平成6年7月6日と大阪高判平成7年2月28日、 大阪地判平成7年10月17日と大阪高判平成11年1月28日を、それぞれ比較してみれば顕著です)。
 基本的傾向としては前記②の考え方の裁判所の方が多いとみられますが、 多数の事件により裁判所の認識が次第に深まってきていることも事実です。
 また、融資一体型変額保険の場合、生命保険会社の責任とともに銀行の責任が問題となりますが、裁判所は (生命保険会社の責任を認めた場合でも)銀行責任を認めることには必ずしも積極的ではありません。
<資料>消費者法ニュース・各年の消費者白書における「変額保険」部分

(3)裁判所の判断の背景(司法問題)
 変額保険事件について、判決状況にも見て取れるとおり、裁判所は必ずしも十分な機能をしているとはいえません。
 変額保険事件において、裁判所の機能が不十分である理由はいくつか考えられます。
①大銀行・大生命保険会社対個人の裁判
 変額保険訴訟は、大銀行・大生命保険会社を相手とした裁判です。銀行・生命保険会社は、証拠・情報を豊富に保有していますし、 組織的に対応をします。これに対して、被害者側は個人であり、証拠等は十分残っていない場合が多く、 本人が高齢であることも少なくなく証言能力という点でも限界があります。
 変額保険事件では、このように当事者間の力に格段の格差があるといわざるを得ません。
②被害者側に立証責任
 裁判では、被害者側に立証責任が課されます。すなわち、被害者側は、融資一体型変額保険に問題があること、及び、銀行・ 生命保険会社による勧誘・販売経過に違法があったことを証明しなくてはなりません。 ①に述べたように当事者の力に格段の格差がある中、こうした立証は容易ではありません。
③証拠が提出されない
 ①のとおり、銀行・生命保険会社は証拠・情報を豊富に保有していますが、こうした証拠・ 情報を提出することに積極的ではありません。例えば、生命保険会社は、 変額保険の運用実績数値の変動経過を開示することに抵抗したこともありました(契約者として、 当然知ることのできるはずのものです)。
 問題なのは、裁判所も証拠・情報を出させることに積極的でない点です。例えば、銀行の融資稟議書は、 当時の事実関係を確認するため重要な資料となるものですが、最高裁判所はこれを裁判所に提出する必要はないとしています (最高裁平成11年11月12日決定)。
④融資一体型変額保険の商品内容がなかなか理解されない
 裁判所は、金融商品特に新しい商品、複雑な商品を理解する能力や知識・情報の蓄積を必ずしも有していません。 融資一体型変額保険の極めて高いリスクについて、裁判所の理解を得ることは必ずしも容易ではありません。
⑤自己責任原則の過度の強調
この間、金融自由化が進められ、その反面として自己責任が強調されてきました。こうした風潮を反映して、裁判所の判断の中にも、 自己責任を過度に強調する傾向があります。
⑥銀行・生命保険会社よりの判断
 最後に、裁判所は本来的に銀行・生命保険会社の主張を採用しがちな傾向にあります。こうした傾向の原因として、 現在の最高裁判所による裁判官統制や、裁判官が退官した後の就職先との関係も指摘されています。
<資料>パンフレット「司法改革」東京合同法律事務所

(4)裁判所における和解の状況
 変額保険事件の多くは、裁判上の和解により解決してきています。
 銀行及び生命保険会社は、和解を成立させるにあたって、和解内容を第三者に伝達しないことを求めるため、 和解の具体的内容は公にはなっていません。このように紛争解決の姿を隠そうとする企業姿勢は批判されるべきです。
 和解の内容の全体的傾向は必ずしも明らかではありませんが、さまざまな水準のものがあり、 技術的にも様々な形態のものがあるようです。
<資料>消費者法ニュース・各年の消費者白書における「変額保険」部分
5 国会や行政の動き
(1)行政の対応
 この間、行政は変額保険事件の解決に向けて、積極的役割を果たしてきたとはいえず、見るべき対応策はとられていません。
 
(2)国会の議論の状況
 変額保険事件は、これまで国会においては何度も取り上げられてきました。
 最近の国会答弁では、変額保険事件の問題点が、政府委員により端的に認められています。
 「変額保険の問題は、一番目に、商品のリスクに関する説明が十分でなかった、これはもう確実に言えることだと思います。 それから二番目に、融資業者等が販売業者である保険会社と一体となってしまった。一体となって事実上勧誘販売行為を行っている。 ですから、融資と金融商品の販売業者が一体となっている、そこに融資と金融商品の販売行為が一つになった、 こういう二つの問題があろうと思います」(平成12年5月19日・第147回衆議院大蔵委員会・大野(功)政務次官)。
6 変額保険事件解決への動き
(1) 変額保険被害弁護士連絡協議会
 変額保険事件問題が表面化したのは平成4年当時です。被害者側弁護士は平成4年変額保険被害弁護士連絡協議会を発足させ (平成10年時点で約100名)、以降事件に関する学習・情報交換を行うとともに、 大蔵省等監督官庁への申し入れ等を行ってきています。

(2)融資型変額保険被害者の会
 被害者団体としては、変額保険被害者の会が平成5年(当初約400家族)以降活動を続けてきており、 同会は金融被害の被害者団体の中でも重要な位置を占めています。

(3)銀行の貸し手責任を問う会
 変額保険事件のみを対象としたものではありませんが、学者弁護士等により銀行の貸し手責任を問う会が結成され、 銀行問題に関して広く蓄積と運動を進めてくるとともに、変額保険問題についても蓄積と運動を重ねてきています。

(4)国会議員による超党派の議員連盟
 変額保険事件の追及は国会の場でも繰り返し行われてきていますが、1999年2月には、 金融サービス法制定を求める超党派の議員連盟が旗揚げされました。

 

 

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