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「再審と鑑定」に寄せて

東京合同法律事務所ニュース第108号(2006年1月1日発行)より、上田誠吉弁護士による"「再審と鑑定」に寄せて"を掲載します。

弁護士 上田 誠吉

 私たちの事務所の同人、谷村正太郎さんが、今年70才の古稀を迎えた機会に、著書『再審と鑑定』(日本評論社刊)を刊行された。10月29日、青山のレストランに事務所の同人や旧友たちが集まって、それらを慶祝する会合が開かれた。祝意と敬意を謝意のこめられた、愉しい会合であった。
 白鳥事件と芦別事件での谷村さんの奮闘は、その半生をかけたもので、そのなかで取組んだ証拠の分析や批判の方法、弁護の方針、真実への迫追などの努力を中心に、私たちがそれぞれに自分の分野を分担しながら、互いに手を携えて闘った歩みを、客観的に、しかも情感をこめて描き出している。1975年5月の白鳥事件の決定は私たちの請求を棄却するものであったが、その理由のなかで、従来の再審の法理をくつがえす達成を示していた。谷村さんは書いている。「白鳥事件の支援活動、科学者の共同研究、法学研究者の支援、各再審事件の活動、そして日弁連の活動が結びつき、一つの大きな力となったとき、はじめて白鳥決定は作り出されたのである」と。そして谷村さんはそれらのすべてに自分の経験として取組んできたのである。
 これらの大きな運動の前史として、「再審と鑑定」に道を開いていったのが、松川事件の大衆的裁判闘争に象徴される闘いの蓄積であった。それは日弁連の再審運動に果した尾崎隆さんと大塚一男さんの貢献を考えただけで理解されるだろう。それらをひきついで、その後、竹沢哲夫さん、谷村さん、西嶋勝彦さん、岡部保男さんたちが成果をあげていったのである。杉之原舜一さん、関原勇さんなどの名をあげることも可能であろう。私たちの事務所の同人たちは、刑事再審の道を開くのに精進してきたのである。
 その意味では、谷村さんの新著は、私たちの共同の仕事を全体として描き出してくれたものといえよう。私はその感を深くして、谷村さんに謝意を述べたのである。
 横浜事件の再審が開始された。名張事件の再審開始決定がおこなわれ、ひきつづき布川事件の再審開始決定がおこなわれた。検察側は上訴をやめようとしないが、再審をめぐって新しい胎動が動きはじめたように見える。谷村さんの新著は、刑事裁判の誤判を正すうえで役立だせたいと思う。
 個人的感傷をひとつ。新著一九六頁以下の「白鳥事件の謎に思う」を読んで、夏の陽差しのもとで谷村さんと静岡、三重の田舎道をあるいたことをおもい出した。私たちのさがしていた婦人は、自衛隊鈴鹿基
地につとめる下士官の婦人になっておられたが、新しい知識はえられなかった。

(東京合同法律事務所ニュース 第108号より)